2024年4月26日(金)

WEDGE REPORT

2020年8月1日

―― 新型コロナウイルス感染についてニューヨークの現状はどうか。

ジェトロ・ニューヨーク事務所・権田ディレクター 3月22日午後8時より、必要不可欠な事業を除き、州内のすべての事務所や店舗を閉鎖し、全従業員を自宅待機させるよう指示するニューヨーク州の知事令が出された。これを受けて、多くの企業が3カ月程度の在宅勤務を強いられた。その後、段階的に州の規制が緩和されて、ニューヨーク市が6月8日に経済活動再開(リオープン)の第1段階、6月22日に第2段階へと移行する中で、ジェトロ事務所を含むオフィスも部分的に再開できるようになった。

 一方で、米国に進出している日系企業を対象にアンケートを実施したところ、安全確保等のため、6月末時点でも日系企業の4割が在宅勤務中(製造業で約3割、非製造業では5割超)としている。出勤者を一部に絞り、大半の従業員は在宅勤務を継続するなど、慎重に再開を進めている企業も多い。

 最近では日系企業から「オフィスに戻らなくても業務上の支障はほとんどない」「オフィスに戻る必要があるのかという議論が出ている」といった声も聞かれるようになった。アフター・ウィズコロナ時代の働き方は、完全在宅勤務とまでいかなくても、100%元通りにはならないだろう。

―― ニューヨーク以外の地域の感染拡大が加速しているようだが。

権田氏 当初はニューヨークを含む北東部が感染拡大の中心地であったが、最近は一旦山場を越えたようにみえる。ここ数週間、全国の新規感染者数が再び急増しているが、数字だけをみると、北東部に第2波が来たというより、南部・西部に遅れて第1波が来ているような印象を受ける。暖かく、人口密集地でないところで感染が広がっており、初期の感染拡大とは異なる特徴を有する。

―― 株価が好調な上に、失業率も全体では好転しているが、前回の大統領選挙でトランプ大統領の票田となった中西部州の雇用情勢はどうか。

権田氏 2016年の選挙で共和党が獲得したものの、共和党と民主党の支持が拮抗するいわゆるスイング・ステート(接戦州)の雇用者数の伸びをみると、16年11月からの3年間で3.3%増となっており、増加幅は全国(4.5%増)を下回る。製造業も3.4%増と同様に伸びていたが、全国(4.3%増)より低い。戦後最長の景気拡大の中で、スイング・ステートの雇用情勢も着実に改善してきたが、回復ペースにはやや遅れがみられる。

 株価が実体経済以上に回復しているようにみえる一つの背景は、米国経済の成長率予測が20年はマイナスだが21年以降は回復するとの期待を先取りしている部分があるのだろう。これに加えて、歴史的規模で金融緩和が行われる中で、マネーが株に向かっていることも下支えしているとみられる。

―― トランプ大統領が進めてきた鉄鋼、自動車など製造業は競争力を回復したと言えるか。

権田氏 16年11月からの3年間の雇用者数の伸びをみると、8割がサービス部門によるものであり、自動車、鉄鋼、一次金属などの製造業の寄与は1割弱にとどまる。戦後最長の景気拡大の中で、製造業雇用も着実に回復してきたが、全体の伸びを支えたのは、堅調な個人消費に支えられたサービス部門であった。

 また米国の製造業雇用は、世界金融危機後の09年に大きく減少し、その後オバマ政権時代を含めて緩やかに回復してきたが、依然として危機前の水準を下回っている。雇用者数は競争力を直接表す指標ではないが、少なくとも製造業が以前の状態に戻ったとは言えないだろう。

―― そういう状況ならばトランプ大統領の支持率がもっと下がってもよいと思うが、意外に下がっていないのはなぜか。

権田氏 コロナ禍対応などを背景として批判が高まる中でも、3〜4割程度の支持率が維持されている点は興味深い。最近では、大統領支持率と景気、雇用との関連性が薄くなっているとの指摘もある。米国を再び強くするという大統領の姿勢が、一定のコア層の支持を集め続けている可能性がある。

―― 後半戦を迎える大統領選挙がこれから熱を帯びてくる中で、決め手となる政策は何になると思うか。

権田氏 やはり、コロナ対応と経済立て直し策が注目される。経済再開に積極的なトランプ大統領と、「トランプ大統領は、基本的に企業活動を再開せよとの一点張り」と批判的なバイデン候補でどのような違いがでるか。家計や企業の資金繰り支援策など、追加の経済対策に対する姿勢も影響するだろう。州ごとにみると、知事の所属政党が共和党の州は経済再開に前向きだが、民主党の州は感染拡大を警戒するとの傾向もみられる。感染拡大抑制と経済再開をどのように両立させるのか、両党の対応の違いも注目される。

―― 現状では民主党候補のバイデン氏がリードしていると伝えられているが。

権田氏 支持率だけでみると、現時点でバイデン氏がリードしているのは間違いないが、前回の選挙で世論調査通りの結果にならなかったことやマイノリティ層を中心とした投票率がどうなるのかなど、不確実な要素も多く、現時点でバイデン氏当確とまでは言いづらいだろう。


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