奇策の駆使などはケースバイケース
無論、それだけではない。コロナ禍で今季のレギュラーシーズンは超過密日程が組まれ、投手陣のやり繰りも非常に難しくなっている。前例のないシーズンを戦う上で、常識にとらわれない采配や起用法の導入、奇策の駆使などはケースバイケースだが当然必要となってくるだろう。
それ以外に「巨人軍だから最後まで戦う姿勢を貫かなくてはいけない」という意見があることも時折耳にする。簡単に言えば野手をマウンドに立たせるなんて〝捨て試合〟として勝利を放棄したことの証明であり、伝統ある巨人では許されない行為だという指摘だが、少なくとも原監督の心中には前記したように完全に「ギブアップ」したという意識はなかったと推察できるので、これにも同意できない。
加えてもし「巨人軍だから」という妙な慣例が未だに生き続けているのであれば、それがチームの足かせとなって現代野球の戦い方にフィットできず優勝するために必要な起用する側の柔軟な発想を邪魔することにつながる可能性もあり、まさに本末転倒である。そんな面倒なものなら、もう取っ払ってしまったほうがいいし、原監督は気にする必要もない。
何よりも今、全責任を担ってタクトをふるっているのは他ならぬ原監督なのである。別にルールを破ったわけではないのだ。毎試合必死になって頭をひねらせながら様々な策を講じている指揮官に対し、外野が無責任な〝後出しジャンケン〟でとやかく言う必要はないだろう。ここ最近はやや失速気味だが、何だかんだと言われつつも巨人は首位の位置をキープしているのだから別にイチャモンを付けられる筋合いもないはずだ。どうしても野手の投手起用に文句を付けたい人がいるならば、今季で巨人がリーグ連覇を果たせなかった時にあらためて言えばいいのではないか。
ひと足先にMLBでは大差をつけられた中での野手登板がトレンドになっている。その急増を受け、機構側によって来季から野手の登板に関し「二刀流」登録と「延長戦か6点差以上での試合のみ」とするルールが設けられたが、近年の日本では2000年(当時オリックス・ブルーウェーブの五十嵐章人が同年6月3日の大阪近鉄バファローズ戦で1イニングを投げ、無失点)を最後に行われたことがなく議論の対象にすらなっていなかった。もしかしたら原監督の胸の内には「こんなやり方もあるんだぞ」と、あえて日本球界にボールを投げようと試みた意味合いもあったのかもしれない。いずれにせよ、やっぱり凄い指揮官だと思う。
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