2024年11月25日(月)

Wedge REPORT

2020年7月6日

 やはり世紀の大番狂わせは起こらなかった。東京都知事選挙は現職の小池百合子氏が圧勝し、2回目の当選を果たした。過去最多の22人が立候補した争いの行方は混沌とせずに大方の予想通りの結果で開票は終了。対抗馬となるべき他の候補者たちの主張は多くの有権者に受け入れられることはなかった。

 最大の争点となったのは、言うまでもなく新型コロナウイルスにまつわる政策だ。感染拡大の防止や経済対策に加え、来夏に延期された東京五輪・パラリンピックについても各候補者たちの考えは三者三様。ただ、この東京五輪に関する公約において、小池氏はアスリートや大会組織委員会、日本オリンピック委員会(JOC)、国内競技団体など大会に携わる関係者の大半から相当数の支持を得ていた。

(voyata/gettyimages)

 コロナ禍が激しさを増し始めた今年3月頃まで小池氏は現職の都知事として東京五輪の今夏開催を予定通り、政府や大会組織委員会側と連携し何とかぎりぎりまで模索。しかし難航するようになると最悪の開催中止を避けるため水面下で日本側が方向転換し、IOC(国際オリンピック委員会)と1年延期の妥協案を取りまとめようとする動きに小池氏も同調して各方面の調整に尽力した。大会に携わる関係者にとって現職の小池氏は言わば〝同志〟だ。再選を果たした上で引き続き来夏開催に向け、開催地・東京都のトップとして陣頭指揮を執ってもらったほうがいいに決まっている。

 加えて今回の都知事選で主要候補と目された候補者の中においても、2度目の延期は視野に入れず、あくまでも来夏開催で「コロナに打ち勝った証として行うべき」と強く訴え続けていた主張が、招致活動から心血を注ぎ続けている都の大会関係者や参加を目指すアスリートたちの共感を呼んだようである。

 明確に「実施すべきでない」と断言していた山本太郎氏や、そして「来夏の開催が困難と判断された場合はIOCに中止を働きかける」と述べていた宇都宮健児氏、中止は断固反対しつつも2024年の延期も視野に入れることを明言していた小野泰輔氏ら他の有力候補は〝NG〟――。それが何としてでも来夏開催を実現させたい大会関係者や、もう再延期や最悪の中止だけは是が非でも避けてほしいと願うアスリートたちの総意に近い結論だった。

 実際に都知事選前から大会組織委員会の有力者たちが「現職としてここまで取りまとめに尽力してもらった小池さんに再選してもらわないと、東京五輪の来夏開催は今後土台にすら乗らなくなる恐れがある」と口にし、その立場上から「支持」を明言できないまでも暗に一致団結しながら全面バックアップする姿勢をほのめかしていた。だから小池氏の再選にはさぞかし安堵し、万々歳の心境となっているはずだと思っていた。

 ところが、本音は違うようだ。同じく小池氏を支持していた大会組織委員会の関係者に都知事選開票後の結果を踏まえて聞き直してみると、思いのほか手放しで喜んでいる様子はなく「これからが大変だと思う」と複雑な心境となっていることを垣間見せていた。

 現実問題として来夏へ延期された東京五輪の莫大な追加経費の負担は開催地の東京都にも当然重くのしかかることになる。小池氏は「都民、国民の理解を得るために簡素化して費用を縮減する」とうたっているが、その概要は今もってほとんど見えてこない。

 言うのは簡単だが、実現する上で課題は山積みである。新型コロナウイルスの影響で日本経済は「リーマンショック」を上回る大打撃が予想され、それに反映される形で都の税収も今後激減するのは間違いない。いくら大会運営の費用を縮減すると言っても現段階では机上の空論に過ぎず、追加経費の負担を税収大幅減となりそうな都がまかない切れなくなる恐れも十分考えられるだろう。

 延期による追加経費は総額3000億円とも見積もられている。このうちでIOCが今のところ負担することを決めているのは、最大8億ドル(約860億円)。まだ話し合いの余地は残されているとみられるが、いずれにせよ日本に課せられる追加経費は最終的にゾッとするような額となりそうだ。

 この莫大な額について政府との費用分担を都がどの程度の割合で決め切れるかも、小池氏の手腕にかかってくる。その舵取りを誤れば、東京都民を筆頭に凄まじい批判を浴びることにもなりかねない。ただ、前出の関係者は「その交渉過程の中で不利になった場合、小池さんは思わぬ奥の手のカードを切って来るのではないか」と実は内心で疑心暗鬼になっている心境も打ち明け、こう続けた。


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