完全に相手を飲み込んでいた。新型コロナウイルスの感染拡大により、約3カ月遅れで19日に幕を開けたプロ野球の2020年シーズン。昨年のセ・リーグを制した巨人は本拠地・東京ドームのオープニングゲームで阪神を迎え撃ち、伝統の一戦としては史上初の開幕3連勝を飾った。ひと昔前なら東西人気球団のライバル対決で手に汗握る内容が期待できたが、近年は弱虎を子ども扱いにするGの強さばかりが目立つ。
この開幕3連戦で阪神が18安打4得点だったのに対し、巨人は28安打21得点。10安打の差で17得点もの開きが出た結果を見ても分かるように阪神の淡白な攻めに対し、巨人打線は最後まで集中力を切らさずに効率よく後続へと繋げながら点を重ねていた。開幕3連戦のうち2試合が逆転勝利。20日の2戦目は4回に1―1のタイスコアへと戻されるも、その裏に引っ繰り返すと7回には打者一巡の猛攻で一挙8得点のビッグイニングを作り、終わってみれば11―1で圧勝を飾った。
原辰徳監督が以前から口にする「中押し」「だめ押し」を巨人打線はきっちりと踏襲し、阪神の心を完全に折った。やはりあらためて思い知らされたのは、Gの指揮官の圧倒的な存在感だ。特に感情を露にするわけでもなく、ベンチでジッと腰掛けて腕組みをしながら戦況を見守る。戦況が暗転しかかっても慌てず騒がず。時折傍らのコーチ陣に何やらぼそぼそと言葉をつぶやくぐらいで、それを終えるとすぐ居住まいを正す。
もちろん、得点が入れば拍手やガッツポーズを見せ、選手たちとともに喜びを分かち合う仕草は変わらない。長距離砲タイプではなくコンタクトヒッターとしてMLBを主戦場にしていた新助っ人のヘラルド・パーラ外野手が開幕2、3戦目で2試合連発。その際はベンチでパーラの代名詞でもある「シャークダンス」を指揮官自らが行って迎え入れ、巧みな〝演出効果〟によってベンチ全体の雰囲気を上昇気流に乗せていた。
今季は無観客試合でのスタートを余儀なくされ、選手たちはファンの声援がない異様なムードの中で戦わざるを得なくなっている。特にパーラのような来日1年目の外国人プレーヤーは異国の地に来たばかりで戸惑いも多い。そんな新助っ人たちの心情を察し、原監督は来日1号グランドスラムと2号2ランを連日放ったパーラを粋な祝福の仕方で出迎えた。こういう空気の読み方は、さすがだ。
しかし、このコロナ禍の影響でいつものグータッチは出来なくなっており、今季は持ち味とも言える「原流パフォーマンス」が全体的に控えめ。それでも派手に動き回るシーンが減少したことで原監督に対し、敵陣から「何を考えているのかが、これまで以上に読みにくくなって不気味さが増した」と指摘する声は数多くなっている。
ちなみに巨人の監督として今季は通算14年目だ。節目の今季開幕戦で球団をプロ野球史上初の通算6000勝へと導いたのも単なる巡り合わせではない。やはりこれまで数々の功績を築き上げてきた名将だからこそ成せる結果なのだろう。
第3次政権の就任2年目となる2020年シーズンは〝コロナ特例〟によってセ・リーグにはクライマックスシリーズ(CS)が設けられておらず、否応なしにリーグ優勝を目指すしかない。去年に続いてのリーグ連覇、そして日本シリーズで福岡ソフトバンクホークスを相手に4連敗を喫した屈辱を晴らす上で是が非でも日本一奪回を果たさねばならないのは至上命題だ。新型コロナウイルスの感染リスクとも向き合いつつ、120試合の超過密日程という難しいシーズンの中で結果を出さねばならないが、百戦錬磨の原監督ならそれも覚悟の上であろう。