Wedge REPORT

2020年7月27日

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 言語道断だ。大相撲7月場所(東京・両国国技館)で東前頭5枚目の阿炎が知人と会食に行ったことなどにより、7日目の25日から休場となった。翌8日目の26日には会食の場所が接待を伴う店だったことに加え、他の部屋の幕下力士とともに場所中だけでなく場所前の2回にわたって出入りしていた事実も明らかになった。

 いわゆる「夜の店」へ、能天気に1度ならず2度までも足を運んでいたというのである。日本相撲協会によれば、阿炎に37度6分、幕下力士には37度台の発熱があり、抗原検査を25日と26日に2回受けた結果、両者はいずれも陰性だったという。それでも後日に発症するケースがあるだけにまだ100%の安心はできない。

(BrianAJackson/gettyimages)

 それにしても師匠の錣山親方(元・寺尾)は真っ当で迅速な英断を下したと思う。聞けば7日目25日、のほほんと会場入りしようとした阿炎を両国国技館の駐車場で待ち構え、その場で追い返したそうだ。同親方はこの日の午後2時頃に阿炎が知人らと会食に出かけていたことを知り、急遽休場させることを決断。奇しくも当日はNHKの大相撲中継で向正面の解説席に座っており、放送中に愛弟子の不祥事について事情説明と謝罪の言葉を口にし、険しい表情を浮かべる場面もあった。

 もちろん師匠としての管理責任を問う声もあるだろう。だが、それよりもここは決断力のほうを高く評価したい。ここまで錣山親方は阿炎が〝角界のお騒がせ力士〟と呼ばれながらも、その才能にほれ込み我慢を重ねつつ硬軟の使い分けで巧みに育成し続けてきた。その愛弟子の不祥事を知るや否や躊躇することなく休場させ、すぐさま協会側に報告したことは率直に正しい行動だったと言い切れる。売り出し中の部屋の看板力士に対してならば、どうにか不祥事を内々で処理しようとする下心が師匠の中に生じてしまうことも邪推してしまいたくなるが、そのような悪しき考えは錣山親方の中に微塵もなかったようだ。

 阿炎は26歳。2017年の秋場所で十両優勝すると18年夏場所、名古屋場所と2場所連続の金星獲得によって幕内でも頭角を現していき、19年名古屋場所には新小結に昇進している。つい1か月ほど前には一般女性との婚約を発表したばかりで、公私ともに勢いに乗っていこうとしていた矢先にこのような失態を犯してしまった。

 ただ、阿炎に対しては才能に期待する声が多くある一方で大相撲関係者や好角家からは「何せ天然ボケなところがあるから、いずれ何かをやらかしてしまうのではないか」という不安の目も向けられていた。去年の11月にはインスタグラムで手首や足首、口元にテープを巻かれ、身動きが取れなくなっていた十両力士の様子を阿炎が投稿。暴力行為を連想させるなどとしてSNS上で猛烈な批判が沸き起こり、大騒動となったことで協会側から厳重注意を受け、反省文を提出している。

 さらに今年2月にはSNSに関する講義が含まれていたはずのコンプライアンス研修会に出席後、大勢の報道陣の前で「爆睡してた。寝てたし、何も聞いてねーし」と言い放ち、その発言が報じられて再び猛バッシングを浴びたのも記憶に新しい。

 これだけのお騒がせを繰り返す〝親不孝もの〟に今回ばかりは錣山親方も、さすがに堪忍袋の緒を切らしてしまっただろう。それは自らが弟子の休場を即決した厳しい姿勢にも現れている。

 ちなみに一部からは阿炎の休場に関して「酷い」などといった批判的な意見も上がっている。だが、協会側は新型コロナウイルスの感染リスクを考慮し、あらかじめ7月場所の開催において不要不急の外出をしないようにガイドラインで定めており、全力士や関係者に厳守を徹底させているはずだ。

 ただでさえ相撲は対戦相手の飛沫や汗を浴びまくるコンタクトスポーツとして、他競技と比べて感染リスクの非常に高い戦いを強いられる。誰かが決められたルールを守らなければ、他の力士たちはさらなる危険にさらされる可能性が高まるのは明白であり、本場所の開催は極めて困難になってしまう。

 ましてや大相撲では今年5月、西三段目82枚目の力士、勝武士(しょうぶし)さんが新型コロナウイルス性肺炎による多臓器不全のため尊い命を奪われてしまっている。このような悲劇を繰り返してはならないと誰もが感染に神経を尖らせるのは当たり前の成り行きだ。だからこそ専門家のアドバイスを基に作成したガイドラインに則って今場所は全力士たちが感染に最大限の注意を払いながら、これまでにない窮屈な思いと我慢も重ねつつ15日間の取組に集中している。

 その中でどうしても「こんなガイドラインはおかしい」などとワガママを貫き通し、暴走したいのであれば協会に属する「力士」を名乗る資格はない。これらの観点から、錣山親方の阿炎に対する〝休場通告〟は妥当な措置だと考える。

 仮に錣山親方が気付かなかったら、それこそもっと大変なことになっていただろう。もしガイドラインに従わなかった阿炎らが7日目以降も強行出場し、感染が広がるようなことになれば相撲界の存続を大きく揺るがすような事態につながってしまっていたかもしれない。たとえ誰も感染しなかったとしても、後々に週刊誌などで阿炎らの2度に渡る〝夜の店会食〟が発覚すれば、それでアウトだ。

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