立花聡の「世界ビジネス見聞録」

2020年8月30日

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立花 聡 (たちばな・さとし)

エリス・コンサルティング代表・法学博士

1964年生まれ。早稲田大学理工学部卒。LIXIL(当時トステム)東京本社勤務を経て、英ロイター通信社に入社。1994年から6年間、ロイター中国・東アジア日系市場統括マネージャーとして、上海と香港に駐在。2000年ロイター退職後、エリス・コンサルティングを創設、代表兼首席コンサルタントを務め、現在に至る。法学博士、経営学修士(MBA)。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。

 

付加価値を削れ!マーティングの常識が覆された

 このようにホテルと逆のパターンで、飲食店はエコノミータイプのほうが高級店の客を奪っているのである。コロナ不況で富裕層でも倹約指向が強まり、安くて美味しい料理を出してくれるレストランに足を運ぶ。

 マーケティング学では、「セグメンテーション」という専門用語がある。特定商品・サービスにおける市場を異質とみなし、顧客市場を細分化することを指している。しかし、コロナ禍でこの「セグメンテーション」が常識を覆し、いささか乱れてしまったのである。

 その乱れ方といえば、「付加価値」の排除が1つの傾向ではないかと思われる。「付加価値」はある意味で顧客にとって「付加コスト」にもなっている。コロナ禍によってその「付加コスト」の側面がより可視化し、より強調され、より排除されやすくなったのである。

 「エッセンシャル(essential )」。マレーシア生活者にとって、コロナ期間中にもっとも頻繁に触れる用語の1つである。ロックダウン期間中や一部解除時に、機能維持や再開にあたって優先度のもっとも高い産業群・業種・ビジネス部類を指している。

 つまり、緊急度・必要度の高い、国民生活に不可欠な産業やビジネスである。日本語でいえば、「不要不急」の反対で「必要緊急」の部類にあたる。とりわけコロナ対処の中核をなす医療産業やその他日常的なライフライン事業、基本的な衣食住にかかわるビジネスが挙げられる。

 現代社会、殊に先進国では、第三次産業の比重が増えれば増えるほど、エッセンシャル産業・ビジネスが相対的に比重低下する。たとえば私が携わっている経営コンサルティング業務も、全般的にいえば「非エッセンシャル産業」に属するから、コロナでダメージを受けることはやむを得ないし、宿命ともいえる。

 これは善悪とか正誤とかの問題ではない。時代の変化、有事モードに適応できるかどうかの問題だ。「付加価値」の正体をみると、「不要不急」の度合いが高ければ高いほど排除されやすいわけだ。

 同一産業や業種のなかでも、エッセンシャルな部分が剥き出され、その部分にのみ価値が置かれる。「付加価値」をはじめ非エッセンシャルな部分で糧を得ている産業や業種、職種ほどコロナ期間中に苦戦を強いられている。

 たとえば航空業も同じ。防疫上機内サービスが簡素化すれば、温かい食事を簡単に出せなくなる。パック・シールされた冷たい機内食の提供はつまり「付加価値」の目減りを意味する。その分航空運賃を安くする必要が出てくるし、ビジネスクラスやファーストクラスにも大きな影響が出る。その延長線上で考えると、FSC(フルサービスキャリア)とLCC(格安航空会社)の差別化が縮小し、航空業界の再編を余儀なくされる、という文脈になる。

 「平時」と「有事」をはっきり使い分ける必要がある。「平時」下の常識が「有事」下で通用しなくなったり、覆されたりする。「ニューノーマル」という新常態を迎えるにあたって、まさに今の「有事」が今後の「平時」になろうとしているのである。我々はどんな姿勢で臨むべきだろうか。

 日本は大変素晴らしい国である。国は一応助けてくれる。ただそこで急場を凌ぐための一時的な救済をもらって、「昨日に戻る」ことをただひたすら待つのでは、話にならない。ポストコロナの「有事の平時化」に向けて自分自身をどう変えていくか。能動的なサバイバルが必要とされている。

  
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