2024年12月4日(水)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2020年9月5日

「改革開放」は、マルクス主義経済の思想と方法を完全に否定

3)鄧小平による政治改革は、結果として党の根本体質にまでメスを入れることはできなかった。

 だが、「中国の特色ある社会主義」は多元的で開放的な価値体系を維持し、後継指導者が掲げる「社会主義核心価値観」「三つの代表」「科学的発展観」などに引き継がれ、「中国の特色ある社会主義」に豊かな内容を加えることとなった。だが鄧小平に始まった40年来の「脱マルクス・毛沢東」の努力は、今日に至ってムダになってしまった。

4)マルクス主義の一方の柱である経済部門の失敗は、すでに満天下に明らかだ。

 鄧小平が掲げた「改革開放」は、マルクス主義経済の思想と方法を完全に否定した。残る一方の柱に当たる政治部門での独裁政治が道徳的にも実態からしても邪悪・過誤であることは、すでに天下公認の事実である。

 第19回大会以後、中共はマルクス・レーニン・スターリン・毛沢東の路線に経済部門では訣別しながら政治部門では回帰してしまい、マルクス主義政治体系の永遠の継承者であることを内外に公言するようになった。マルクス主義を支える一方の柱を取り外し、一方を称揚するとは極めて珍妙な姿と言わざるを得ない。

5)第19回大会を機にして、鄧小平が外交戦略として掲げた韜光養晦(実力を蓄えるまで時を稼ぐ)は引っ込められ、中共は「一帯一路」「2025中国製造」などの強硬路線に舵を切った。

 かくして、国際社会は中国に対する猜疑心と警戒感を抱くようになったわけだ。

 とどのつまり中共は鄧小平を棄て去ってマルクスに先祖返りしてしまった。現在の中国を取り巻く緊迫した内外姿勢は、中共が個人独裁に回帰し、改めてマルクス主義を掲げ、世界制覇への野心と永遠の一党独裁を隠そうとしてはいないことを物語るものだ。これが中国を巡って起きている激変の根本要因である。

 鄧小平が創出した「中国の特色ある社会主義」によって、硬直化した中共の統治理論は改められ、マルクスの呪縛を脱し、優れて自主的で成長性が高く、生命力の漲る社会が誕生した。だが、そのような「中国の特色ある社会主義」は「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想」にネジ曲げられた挙句に「21世紀のマルクス主義」と呼ばれるに及んで、中国は再び閉塞化し、主体性を失くした自縄自縛状態に舞い戻ってしまった。

 マルクスの色合いを薄め、毛沢東の軛(くびき)から脱しようとする鄧小平の政治改革路線は、中共にとって自らを救うことだった。だが鄧小平路線を否定し、マルクス・毛沢東の反動路線が息を吹き返したことで、必ずや再び左翼冒険主義の煮え湯を飲まされることになるはずだ。


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