2022年8月17日(水)

WEDGE REPORT

2020年9月17日

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樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

元産經新聞論説委員長

元産經新聞論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員、産経新聞社監査役を歴任。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

ロシアは一顧だにせず

 安倍首相とプーチン大統領による「56年宣言を交渉の基礎とする」とのシンガポール合意は、こうした歴史的経緯、戦後の対ソ、対露外交の基本を根底から否定するに等しかった。そうした外交政策の大転換を、安倍政権は、国民の信を問うこともせずに、いとも簡単にやってのけた。

 合意の直後、安倍首相は「われわれの主張をしていればいいということではない。それで70年間全く状況は変わらなかった」と説明したが、「東京宣言」など過去の日本の努力を無視した発言というべきだろう。 

 安倍氏は「次の世代に先送りすることなく、私とプーチン大統領の手でかならずや終止符を打つ」とも述べ、方針転換によって2島返還が実現するかのような期待感を国民に与えた。

 しかし結果はどうだったか。

 シンガポール合意から時を置かずに2019年1月にモスクワで行われた両首脳の会談では、領土問題は何ら進展をみなかった。首相は記者会見で「戦後70年以上残された問題に解決は容易ではない」と述べ、合意直後の威勢のよさに比べて大きくトーンダウン、同じ人物の発言かと耳を疑った国民も少なくなかったろう。

 ロシア側はシンガポール合意など意に介さず、ラブロフ外相は「南クーリル諸島(北方領土のロシア側呼称)は第2次大戦の結果、ロシア領となった。日本がこれを認めない限り交渉は進展しない」などと、不当な歴史認識を披歴。

 その後、2019年、20年に北方領土を舞台に大規模な軍事演習、20年7月には、領土割譲を禁止する条項を含む憲法改正を行うなど日本の領土返還要求など一顧だにしない態度をとり続けている。

 領土交渉が再び強い膠着状態に陥り、打開のめどが全く立たなくなったなかで安倍内閣は総辞職、シンガポール合意の破棄など軌道修正されずじまいになってしまった。2島返還へと転換した際、どんな成算があったのか、単にロシア側の甘い言葉に騙されただけなのかーなどの経緯は明らかになっていない。

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