2024年7月16日(火)

Wedge REPORT

2020年9月25日

高齢者施設なども危険地域に建て替えられる

Q 高齢者施設などがこうした危険地域に多く建えられている実態があるようだが、その理由は何か。

 原則論から言うと、自ら避難するのが難しい入所者が多い建物をこういう場所に建てるべきではない。安全な避難先や移動手段を確保することも難しい。浸水の危険があるときに、2階に入所者を上げるのも大変で、何時間も置いておくこともできない。しかし、全国的にみると、危険地域内に建てられている高齢者施設が多いことが分かっている。どうして危険な所と分かっていて建設されるのかと言うと、土地代が安く、広い土地が確保できることが上げられる。多くの犠牲者が出た熊本県球磨村の特別養護老人ホーム「千寿園」のケースは、建設当時の2000年には土砂災害の警戒区域には指定されておらず、ハザードマップも作成されていなかった。

 施設の建設コストを抑えないと入居者が集まらない。エレベーターを設置したり、一階をピロティ構造にすると建設コストがかさむ。しかも入所者もその家族も、お金がかかる施設を望んでいない。高いコストが払えないからだ。こうした状況で、施設に災害時の入所者の命の安全を確保しろというのは無理がある。高齢者を夜間も含めて24時間面倒を見るとなるとコストが高くつき、すべてやるのは不可能だ。しかも施設の従業員の待遇は低く賃金も安い。私はこうした危険な場所での新規開発は制限すべきだと思うが、では実効性のある解決策があるかと言うと難しい。

 職員の手当等、災害時のコストについては、保険は有効であろう。自治体の避難勧告と連携して保険金が支給されるような保険商品を開発してはどうか。本当に安全な高齢者施設を作るのであれば、運営は民間に任せるとしても、施設は国が建てるしかない。新規開発は制限すべきだとは思うが、抜本的な解決策を見つけるのは難しい。

はだ・やすのり 1995年大阪大学工学部卒業、2002年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。防災科学技術研究所などを経て、08年10月山梨大学着任。専門は地域防災、災害情報。15年に内閣府防災功労者防災担当大臣表彰受賞。18年から中央防災会議防災対策実行会議大規模噴火時の広域降灰対策検討ワーキング委員。兵庫県出身。48歳。

  
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