2022年12月10日(土)

中国 覇権への躓き

2020年10月2日

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加茂具樹 (かも・ともき)

慶應義塾大学総合政策学部長・教授

専門は現代中国政治外交。1995年慶應義塾大学総合政策学部卒業。2015年4月から同校総合政策学部教授に。16年10月から18年10月まで、在香港日本国総領事館領事。主著に『十年後の中国』(一藝社)、『現代中国の政治制度』(慶應義塾大学出版会、共編著)。
 

米国の「覇権構造」を学び
政策に取り入れてきた中国

 指導部が強硬な対外行動を選択する動機はここにあるのだろう。現在の中国指導部は、自らの外交路線を「中国の特色ある大国外交」とよぶ。この外交路線は17年11月の第19回共産党大会で確定した。中国の公式の解釈によれば「大国」とは「major country」であるが、共産党宣伝部が発行する習近平の発言を解説する書籍は「大国」を「世界の平和の問題に影響をあたえる決定的な力」と説明している。

 現指導部の外交路線の関心は、「力(パワー)」の拡大にある。そのなかでも重視してきたのが「制度に埋め込まれたディスコース・パワー」(中国語:制度性話語権)である。ディスコース・パワーとは、話し手の言説に含まれる論理、価値観が生み出す影響力であり、発言の内容を相手に受け入れさせるパワーである。そして、制度に埋め込まれたディスコース・パワーとは、国際秩序を形作る国際制度での議題設定や議決に中国の要求を受け入れさせるパワーだ。

 これを強化するという方針は、おそらく、冷戦構造崩壊以降、中国国内の国際政治研究サークルでなされてきた米国研究の成果と関連しているだろう。その主要な関心は、既存の国際秩序を形作る米国の覇権がどのようにしてもたらされているのかにあった。

 外交政策決定サークルに近いと目される研究者は、米国の覇権をレジーム覇権、経済覇権、政治とイデオロギー覇権、軍事覇権によって形作られていると論じてきた。このレジーム覇権という考え方は、制度に埋め込まれたディスコース・パワーに近い。指導部は、米国による覇権の構造を学び、政策に取り入れ、発展に有利な国際秩序の構築を目指しているように見える。

 指導部は、この概念を15年10月に発表した「第13次5カ年計画(16年~20年)」草案のなかで初めて提起し、16年3月の全国人民代表大会がこれを正式に採択した。「グローバルガバナンスと国際公共財の供給に積極的に関与し、グローバル経済ガバナンスでの制度に埋め込まれたディスコース・パワーを高め、幅広い利益共同体を構築する」という方針である。

 この結果として指導部が目指していることは、世界銀行や国際通貨基金といった既存の国際制度での議題設定権や議決権の拡大である。加えて、「一帯一路」やアジアインフラ投資銀行(AIIB)といった中国が主導して設けた国際制度の影響力を強化することであり、また、それが既存の国際制度の改革を促すことも当然意識していた。そして深海底やサイバー、極地、宇宙などの新しい領域に関する国際制度の構築を先導することも目指してきた。

 米中対立下においても、中国外交は、自らの発展に有利な国際秩序を構築するために自らの要求を既存の国際秩序に埋め込む「大国外交」を展開する。そのための具体策は何かを理解する上で、手掛かりとなるのは、今秋に開催する共産党の会議で示される「第14次5カ年計画(21~25年)」の草案である。「第13次5カ年計画」から何を継承し、何を変えるのか注目だ。

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