2022年8月8日(月)

WEDGE REPORT

2020年10月14日

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国交省が新方針
規制強化に舵を切るが……

 河川が氾濫して浸水の恐れのある地域は黄色や赤色などで表示され、住民が浸水時に避難する目安になっているハザードマップは、対象となる全国の自治体のうち全体の98%が作成して公表している(20年1月現在)。しかし、危ない地域だという指定はあっても、ハザードマップの浸水想定区域内に家を建てないようにする規制はない。

 このため国交省は土地利用方策として都市計画法を改正して、土砂災害特別警戒区域などのいわゆる「災害レッドゾーン」において、病院、社会福祉施設等の開発を原則禁止し、浸水ハザードエリア等についても、市街化調整区域(開発を抑制する区域)における開発許可を厳格化するなど新たな制度を導入する方針だ。

 水災害対策を担当する同省の五道仁実前水管理・国土保全局長は「(雨量など)気候変動による外力の増大に対し、堤防やダム、遊水池などの整備を加速・充実することに加え、氾濫した場合を想定して、水害リスクの高い地域の土地利用規制や、より水害リスクの低い地域への誘導といったまちづくりや、土地の嵩上げやピロティ構造(一階部分が柱のみ)といった住まい方の工夫など、避難体制の強化や早期復旧・復興、といった観点から、総合的かつ多層的に対策を講じることが重要だ」と述べ、流域全体での水害対策を強調する。

 これを受けて各自治体でも動きがありそうだ。岡山県の有森達也・建築指導課長は「これまではハザードマップの浸水想定区域の建築を規制する法律がなかったが、国の方針に沿った形で2年後をめどに条例を定めることになるだろう」と話す。

 しかし、各自治体が個人の土地利用を制限するべく条例を制定しても、実際に地区を指定するとなると、私有権を盾に地主の反対も予想されて、簡単には進まない。東京都庁の技術者として、都内ゼロメートル地帯の浸水対策、区画整理事業など多くの対策に取り組んできた公益財団法人リバーフロント研究所の土屋信行・技術審議役は、「私有地という考え方があまりにも強固な個人的権利になってしまったことが、災害を予防するための限界になっている」と指摘する。行政側も公のために私権を譲ってもらうという観点から地道な説得が必要になる。

 滋賀県では14年に全国に先駆けて、浸水警戒区域(建築基準法による災害危険区域)内に住宅を建てる際に建築規制をする「流域治水に関する条例」を定めた。しかし20年までに地区指定ができたのは2カ所にとどまった。

 同県の速水茂喜・流域治水政策室長は「条例により200年に一度の降雨によりおおむね3メートル以上浸水予想がある区域で浸水警戒区域を指定し、安全な避難空間を確保することを許可基準として建築を制限している。新築や建て替え時に宅地を嵩上げするなどして、想定水位以上に避難空間(2階以上に居住区間や屋上など)がある場合は、建築の許可を申請できる。浸水警戒区域の候補地では、自治会や住民の避難計画の作成を支援するなど、安全な住まい方についての取り組みを5年程度かけて実施したうえで、浸水警戒区域を順次指定している。本年度に3カ所増えて5カ所になる」と、指定には時間がかかることを強調する。

 建築制限は私権の制限につながるため、拙速に進めることはできないハードルがある。土地が狭く災害の多い日本で安全な住まいを求めるには、公共の命の安全と土地の私有権とのせめぎあいが課題になる。

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