2024年4月23日(火)

WEDGE REPORT

2020年10月14日

安全なエリアに誘導
するための具体策とは

 都市政策に詳しい明治大学政治経済学部の野澤千絵教授は「日本では約4世帯に1世帯程度が何らかの災害リスク(土砂、浸水、津波など)がある地域に居住している。自然災害は想像を超えるほど多発しており、人口減少、財政難、復旧担い手不足の中で、これまで同様に復旧・復興コストをかけられるとは思えない。重要なのは、住宅などの新規立地を、特に甚大な被害が想定される災害ハザードエリアで抑制し、安心安全なエリアへどのように立地誘導していくかだ」と指摘する。

 野澤教授が特に問題視するのが、大都市郊外や地方都市の中には、開発可能な市街化区域と開発を抑制する市街化調整区域に区分されておらず、土地利用規制が緩い非線引き区域が存在しており、全体的な人口は減少していても、河川沿いの農地エリアなど明らかに浸水リスクが高いエリアで、若い世帯が購入したと思われる新築住宅が建ちならび、局所的に人口が増えている点だ。

 ではどう誘導するのか。「過疎に悩む地方では少しでも人口を増やしたいために、現行の緩いままの土地利用規制を市町村が自主的に見直す方向には動きにくい。このため、国は、市町村に対して現行の緩い土地利用規制の見直しを促すことに加え、固定資産税の軽減や住宅ローン減税といった住宅の取得や改修に対する補助制度を、甚大な被害が想定されるハザードエリアの内と外で差をつけるなど、立地を重視した住宅政策に変更すべきだ。そうすることで、ハザードエリアに住宅がつくり続けられるという悪循環を断ち切らなければならない」と訴える。

 だが、ある大手ハウスメーカーの社員は、分譲地を購入する際の基準をこう明かす。「ハザードマップ上で建物の半分が浸水するエリアや、分譲地のすべてに浸水の恐れがある場合は避けるが、ハザードマップ内だからといって開発しないわけではない」。こうした供給が続く背景には、持ち家優遇政策や、持ち家信仰がある。

 年々災害が増加するなかで、その都度、巨額の復旧予算を充てていくことには限界がある。住宅火災保険の保険料も値上がり傾向にあり、これが災害危険地域での新築抑制につながることも期待されるが、対処療法は限界に近づいている。野放図な新築建設に歯止めをかけなければならない。

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◆Wedge2020年10月号より

 

 

 

 

 

 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


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