2022年10月6日(木)

WEDGE REPORT

2020年10月7日

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 「必要な病床数は確保されている」「医療のひっ迫が起きつつある」。政府や都道府県知事が感染拡大の情報を発表する際に、たびたび聞かれた言葉だ。だが、コロナ禍の医療現場の状況を「病床数」だけで語ることができるのだろうか。日々、新型コロナウイルス感染症の対応に追われる現場を訪ね、実態を取材した。

SAKURA HIRAI

見えてきた対処療法
感染への懸念は変わらず

 「CTに映る肺炎の影を見れば、細菌性の肺炎か新型コロナによるものかがわかるようになった。加えて、患者の症状がどう変化していくかも読めるようになってきた。ただ、重症患者が多くなれば、通常の診療に影響を及ぼしかねない」。新型コロナの脅威について、感染拡大当初から患者の治療にあたってきた聖路加国際病院(東京都)で救急部長を務める石松伸一医師は語る。

 3月~4月の感染拡大第一波では「医療崩壊」が懸念され、多くの病院が未知のウイルス対応に追われた。同院も、院内に複数あるICU(集中治療室)のうち、1カ所の空調を改造し、空気中のウイルスが外に出ないように気圧を低くする「陰圧」を施し、新型コロナ患者専用とした。今ではその対応をやめ、重症患者は院内に5床ある陰圧室だけの対応としている。

 東京都立多摩総合医療センター救命救急センター長の清水敬樹医師は「人工呼吸器管理から体外式膜型人工肺(ECMO=エクモ)へと移行した患者が感染拡大当初は20%だったのが現在は10%ほどに抑えられている」と話す。新型コロナ対応のための人工呼吸器の的確な設定と管理方法が確立され、多くの医療機関が厳格に運用できるようになった。これにより、症状の深刻化を防げるようになっている。

 それでも、近藤泰児院長は「新型コロナ患者の数によって、医師や看護師の勤務から病床の配置まで考え直さないといけない」と話す。対処療法は見えてきたにもかかわらず、医療現場の負担はいまだ重くのしかかっている。

 大きな要因が新型コロナ患者の治療にあたる医療者を通じた院内感染のリスクだ。聖路加国際病院の救命救急現場で新型コロナ患者の治療にあたってきた中道友梨看護師はこう語る。

 「接触感染も飛沫感染もエアロゾルによる感染もすべてケアしないといけないのは初めて。患者の身体を拭くことや体位交換、排せつの管理といったすべてのケアで特別な対応が求められる」

 新型コロナの重症患者がいる陰圧室へ入る際には、気密性が高くエアロゾル感染を防ぐN95マスクと、フェイスシールドもしくはゴーグル、ガウン、帽子、手袋を着用しなければならない。2時間に1回行わなければならない患者の体位転換の際にも、エアロゾルが発生しないように細心の注意を払う。N95マスクは密閉性が高いため、息苦しさを感じ、長時間着けるとストレスを感じるという。

 病室を出る時には、ガウンやマスクに付着したウイルスを外に持ち出さないよう、着用したものをすべて脱ぐ必要がある。つまり、「陰圧室にいる時に別の患者からナースコールがあっても、すぐには対応できない」(中道看護師)のが実態だ。

陰圧室前の決められたスペースでガウンなどを脱ぎ捨てる
(ST. LUKE'S INTERNATIONAL HOSPITAL)

 また、高熱や息苦しさといった「コロナ疑い」の症状を持つ患者にはすべてPCR検査を実施しており、その結果が出るまでの2~3日は新型コロナ患者と同様に隔離しなければならない。新型コロナと似た症状は熱中症や心不全でも起こりうるが、院内感染を防ぐためにも必要な措置となる。

 同院の福井次矢院長は「毎日、担当部局をまたいで患者に関する報告や最新の研究結果について情報交換している。外来や手術、健康診断などを部分的に減らして、何とかしのいでいる」と話す。「入院患者数」だけでは言い表せない医療現場への追加的な業務や自らが感染するかもしれないという精神的な圧迫は大きい。事実、同院ではメンタル相談が多くなり、休暇をとる職員もいるという。

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