「今日からみると、沖縄は当時、独立した国家として中国の藩属国であり、中国との関係が非常に近かった。」
別のくだりはいざ知らず、この部分だけみれば、歴史家としても間然するところのない議論で、史実として誤った点は見いだせない。おそらく産経の記事は、中国語で公になった金一南氏のこの発言を抄訳したのであろうが、「沖縄は中国の属国だった」といわれると、確かに一般の日本人には“暴論”に聞こえる。「藩属国」は原文どおりの漢語、それを「属国」とするのは、決して誤訳ではない。それなら、“暴論”が事実なのかといえば、やはりそうでもない。史実に誤りがないのに、“暴論”になってしまう。どうやら、そこに問題の本質がある。
産経の記事と中広網の原文記事に見る違い
そこで、もうひとつ。原文の記事には、次のような見出しがついている。
「琉球群島は中国の属地である。日本は出て行け」
この煽情的な表現はあくまで見出しであって、金一南氏自身の発言ではない。それでもやはり、産経の文面と異なる点に注目したい。つまり日本語で「属国」としたものを、中国語は「属地」と解しているわけである。
日本人の歴史感覚でいえば、琉球などが貢ぎ物をもった使節を派遣したからといって、その国が属国になるわけではない。卑近なたとえでいえば、お辞儀をし、へりくだった物言いをし、おみやげを持参したからといって、相手に隷属するはずはないだろう。
さらにいえば、「属国」と「属地」は大いにちがう。前者は曲がりなりにも別の国なのに対し、後者は領土、もしくはそれに準ずる同じ国の一部にほかならない。琉球が「属国」でも論外なのに、中国人はさらにそこを自らの「属地」だと考えている、とあっては、いよいよ以ての外である。
しかし以上は、しょせん日本人の感覚だということを忘れてはならない。「藩属国」を「属国」と訳しても誤訳ではないのと同時に、「属地」と言い換えても、決して改竄ではない。そうなってしまうところに、日中の摩擦をもたらす大きな理由がある。
「藩属」といい「属国」といい「属地」といい、どの漢語も指す実体は、歴史的にみれば大した違いはない。いずれも貢ぎ物をもってきて、儀礼上、中国の下位に立つから、「属」という字がつく。それは本来、儀礼的な意味しかなかった。