チャイナ・ウォッチャーの視点

2012年8月7日

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中国の領土観念とそれに関わる語彙概念

 ところが19世紀の末から20世紀にかけて、近代的、国際的な支配隷属関係を同じ「属」という漢字であらわしたことで、事情がかわってくる。列強の脅威を感じた中国は、儀礼上の「属国」に実質的な従属の意味をもたせ、関係をかえはじめた。琉球も朝鮮も、その過程で日本と対立し、戦争にまでなったのである。また「属地」も20世紀に入って、近代的な領土とひとしい意味で用いはじめた。こちらはチベットやモンゴルが該当し、現代の困難な民族問題の出発をなしている。

 かくて「属国」「属地」ともに近代的な意味では、日本人の使う漢語と同義になった。というよりも、近代の日本漢語が中国語化した、というほうが正しい。

 しかし中国語は、まったく同じ字面で、以前の意味をも兼ね備える。「藩属国」といえば、それは「属国」にも「属地」にも言い換えられ、古い史実も近代的な意義をも包括できる。そこから昔の「藩属」は、今の「属地」だという論理も生じてくる。それが中国人大多数の感覚にほかならない。

 筆者はすでに『WEDGE』2011年3月号掲載の拙稿「他国領を自国とする論理」で、こうした漢語概念とそれにむすびついた中国の世界観・行動パターンを明らかにしている。金一南発言をめぐる最近の報道は、その沖縄版だといってよい。

 中国の領土観念とそれに関わる語彙概念を知るには、その歴史をつぶさにみなくてはならない。それを忘れた議論は一知半解、今回のように対立をいたずらに激化させるばかりで、ひいては日本自身のためにもならない。官民ともそのことを肝に銘じるべきであろう。

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