台湾を狙う中国
中国の出方も侮れない。トランプ大統領は大統領選敗退確定後の9日、反政府デモ鎮圧を目的とした軍投入に慎重姿勢を見せてきたエスパー国防長官を解任、翌10日にはこれに抗議してジェームズ・アンダーソン同省国防政策局長、ジョセフ・カーナン情報局長、ジェン・スチュアート長官首席補佐官の実務レベルトップ3人が辞任するなど、「省内はカオス状態」(政治情報メディア「The Hill」)となっている。
ワシントンの軍事専門家の間では、こうした混乱状態のすきをついて中国が米政権移行期間中に、台湾海峡、そして南シナ海で軍事挑発をエスカレートさせる可能性があるとして、警戒を強めている。
15日付のニューヨーク・タイムズ(国際版)は、中国問題専門家のエリザベス・エコノミー・フーバー研究所上級研究員の見解として次のように報じている:
「最も心配される可能性は、台湾に対する行動だ。習近平主席がアメリカおよび台湾に対し、今後想定される両者の関係強化には高価な代償が伴うとのシグナルを送っておくことだろう。バイデン次期政権が軍事的対応を余儀なくされることなきよう、政権移行期間中に予め布石を打っておくことだ。それは、台湾全面侵攻といったものよりは、相手に対し無駄な反応をしないようなひとつの事前威嚇措置a warning shot across the bowを意味し、具体的には、台湾向けインターネット海底ケーブルの遮断、サイバー攻撃による停電、投資家に警報を鳴らし株価急落を引き起こす原油タンカー通航阻止……そして習近平側の視点から言うならば、台湾に教訓を教えるといったことだ。(そうなった場合)双方の衝突はただちにエスカレートし得る。なぜなら、台湾側はそうした威嚇行為に対し中国側に代償を払わせることを求めるからだ……さらに中国政府は、バイデン次期政権誕生後の中国政策が温厚なものになるのを好機ととらえ、台湾の近海諸島のどれかに対する軍事行動の時期が熟したと思うかもしれない」
このほかロシアが、米政権交代期の混乱に乗じ、2016年米大統領選挙介入とは比較にならないような、米国内社会インフラに対するサイバー攻撃を仕掛けてくることや、イランがトランプ政権による「イラン核合意」破棄を口実として、バイデン政権発足前にも、後戻りのできない本格核開発に踏み切るなど、ここ数か月の間に国際緊張が一気に高まる可能性を懸念する声が挙がっている。
大統領選後、トランプ大統領個人による政治規範、常道、良識を無視した破廉恥かつ身勝手な振る舞いがいつまで続くのか、その明確な答えはまだ出ていない。
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