同法案を理念化したのが、一般教書演説(2012/1/24)だった。「大きな政府」路線を掲げての、事実上の「中道化」からの方向転換宣言である。金融規制強化、医療保険改革の再擁護、製造業・イノベーション保護などを訴えた。「この経済危機をもたらした政策に戻るつもりはない」とブッシュ政権とウォール街批判を展開し、階級闘争色を前面に出すことを躊躇しなくなった。鳴り物入りで金融界から受け入れた首席補佐官の首も切った。
国内ハイテク企業への税控除など国内で産業を起こす企業は厚遇するが、空洞化原因を作る企業に厳しくと、製造業復活を打ち出した。中道化の時期に実現させた自由貿易路線とは、矛盾が生じかねないが、自由貿易協定は雇用創出になるというレトリックで乗り切ろうとしている。無論、デトロイトだけは聖域であり、自動車については貿易相手国との「阿吽の呼吸」を期待することになる。移民対策では不法移民に厳しい包括的移民改革を促しつつも、他方で有能な意欲ある新たな市民は受け入れるとして、ヒスパニック票への配慮を見せている。2012年6月に発表された、若年層の不法移民の合法的滞在を、16歳未満で入国した30歳以下で5年以上滞在している者、高卒以上か軍経験有りで犯罪歴がない者などを条件に2年更新で認めるという大統領令は、上記の延長で理解できる。
超党派で政権顧問を務めてきたデイビッド・ガーゲンは2012年の一般教書演説を「政治的によくできた演説。民主、インデペンデントを鼓舞した。他方、財政赤字に触れなかった」として、同演説に体現されたオバマ路線が、雇用対策偏重の経済ポピュリズムで財政赤字を棚上げしていることを揶揄した。クリントン政権のインナーサークルの1人であるポール・ベガラが指摘したように「ポピュリスト的」な路線が明確になっているが(アメリカ政治では、大衆や草の根と共にある姿勢を示すポピュリスト姿勢はポジティブな要素としても捉えられる)、大衆と共鳴しにくい「富豪」のロムニーとの対比で、これがオバマ再選の鍵となると陣営は考えているようだ。
オバマ政権とオバマ陣営は、雇用をキーワードに「大きな政府」路線の意義を再強調し、外交面ではブッシュ政権が積み残した課題を果敢に処理している様をアピールする。ビン・ラディン殺害の成功は好例だ。なるほど、陣営顧問のディビッド・アクセルロッドが再選キャンペーン初期に案として語っていたスローガンは、「GMは生き残り、ビンラディンは死んだ」だった。この戦い方に落とし穴はないのか。民主党にも様々な意見がある。次回以降、さらに検証したい。
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