2024年7月18日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2012年9月7日

 三沙市を樹立するかどうかについては、中国国内でその樹立に積極的な人民解放軍と外交的見地から慎重な外交部の間で論争があったとされていますが、結局、三沙市は樹立され、台湾、フィリピン、ベトナム、マレーシアなどとの領有権論争の対象である諸島を管轄する行政単位が出来ました。オースリンが言及している永興島への守備隊配備は重要な動きではありますが、中国は、永興島(西沙群島で最大の島)に既に港も空港も整備しています。

 中国は領有権主張を現実化する措置をじわじわと進めて来る手法を得意としています。漁業調査船から沿岸警備船へ、そして軍艦船に、あるいは、漁民の立ち寄り個所から恒久施設へとするなど、サラミ作戦をしてきて、対象国が適切な対抗措置をとることを難しくしています。軍事的対決路線というものは大抵の国で評判がよくないので、標的にされた国の政府は、話し合いで解決が出来るとの希望的観測に傾きがちになり、結果として、中国が地歩を固め、進出を現実化してくることになります。

 尖閣についても、今から強めの対応をしておくことが正解であり、中国が力に依拠した強引なことをしてこないだろうと甘く見て、当面事なかれ主義で、責任を逃れようとする姿勢はよくありません。

 オースリンは、最後に、南シナ海で中国が主張する島嶼を支配下におくことに米が中国に遠慮して何の措置もとらないでいると、米のアジアでの影響力は終わるとしているが、これには少し疑問が残ります。領土問題は国民感情を刺激するものです。たとえばベトナムは中国の永興島支配に反発をし続けると思われ、言ってみれば、中国は永興島を獲得し、ベトナムを失うことになりかねません。ロシアが欲張って日本固有の領土である北方領土を占拠して、日本の対ロ不信を掻き立てているようなことが、中国とベトナム、インドネシア、フィリピン関係で起こりかねないのです。中国は近隣諸国との不和の種を自ら蒔いていると言えます。

 そして何よりも、北太平洋については、日本を制するものが北太平洋を制するのであり、南シナ海はそれにくらべると、サイド・ショウといってよい存在です。日本は、自国のこのような地政学的価値を正確に認識する必要があります。尖閣への対応も、ここが出発点となるべきです。

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