社長インタビュー
媒体によって実施日に差
売却対象が赤字の太陽電池や間接部門の入居する自社ビルに留まるのと、黒字事業である複写機や空調機器、主力の亀山工場にまで波及するのではインパクトがまったく異なる。当然、シャープ側もセンシティブになる。シャープはこの日、「日本経済新聞における当社の事業売却に関する報道は事実ではない」とコメントを発表した。企業が具体的な媒体名をあげて報道を否定するのはきわめて異例だ。
8月17日の日経報道にシャープはかなり頭にきていたのかもしれない。その雰囲気を醸し出していたのが、27日の奥田隆司社長のインタビューだ。新聞では読売、雑誌ではこの日発売の週刊ダイヤモンドのみに載った。読売の記事には、「亀山工場については、『シャープの生命線だ』と述べ、別会社化や他社からの出資受け入れは否定した」とある。日経報道の否定のダメ押しと言える内容だ。その後9月2日になって日経、朝日にも社長インタビューが載ったが、シャープが媒体によって社長インタビューの実施日に差を付けたことは、何らかの会社側の意図があると見るべきだろう。
読売と日経の報道でなぜ売却候補事業がずれたのか。あくまでこれは想像でしかないが、読売が16日に報道したことで、日経は読売に「抜かれた」形になった。経済専門紙で、取材記者の陣容も一般紙より多いはずの日経が一般紙に産業ネタを抜かれることは、存在意義にかかわる。そのため、翌日の朝刊で読売を上回る内容で勝負し、かつ独自色を出したいとの思いから、これまでの報道で言及されていなかったシャープの黒字事業や世界的に有名な亀山工場に着目して書いたのではないか。当然すべての記事に根拠はあるはずだから、シャープ内部に黒字事業や亀山工場など聖域にとらわれずリストラすべきとの考えをもっている役員らがいたのかもしれない。
企業をめぐる取材は通常、社長や役員などの当事者のほか、取引金融機関などにも取材した情報を総合判断するが、当然ながら関係者の口は固い。一方で取材は加熱し、記者にもプレッシャーがかかってくる。そうした状況が続くと、報道はいきおい乱戦様相を呈し、願望や予想に近い報道が飛び出してくることもある。とはいえシャープの状況はいまだ流動的であり、危機がさらに深刻化すれば、売却対象が拡大することは当然あり得る。読売と日経の報道のどちらがより真実に近かったかは、最終的な再建策の発表時点で確定することになる。