「アクセルとブレーキを同時に踏むようなもの……」。新型コロナウイルスの感染予防と「Go To」など経済を動かすための政策が矛盾するという批判を受けた。しかし、だからといって、どちらかに偏りすぎれば経済は回らなくなり、感染は爆発する。実際、バランスをとることは簡単ではない。
考えてみれば世の中、「両極化」が進んでいる。敗北を認めないトランプ支持派がワシントンDCの連邦議会議事堂に乱入したこともそうだし、国際NGOオックスファムは「世界の最富裕層1%が持つ富は、世界69億人が持つ富の倍以上」と言っている。去年、一昨年のシーズンはまったく降らなかったのに、今年はドカ雪という北陸地方の天候もそうだ。
両極化していく世界のなかで、企業はどうやってアジャストしていくのか? そのヒントを探るべく、『両極化時代のデジタル経営 ポストコロナを生き抜くビジネスの未来図』(ダイヤモンド社)を読んでみた。デロイト トーマツ グループの26人の専門家が、デジタル技術を活用していかにして両極化の時代を乗り越え、新たな経営モデルを構築していくべきかについて、それぞれの専門領域から解説してくれる。
「つながりの創造」をコンセプトに、マーケティング、サプライチェーン、サイバーセキュリティなど経営の主要な課題を分野ごとに解説した第3章は、ややテクニカルなテーマにも及ぶので、自分の仕事や興味に関する所だけ読むのでもいいかもしれない。むしろ多くの人にとって大切なのは、第1章の『両極化の時代が迫る経営モデルの大転換』で示されるような、時代の大きな変化であり、それを受けて第2章で展開される『両極化の時代に求められる新たな経営の構え』についての解説だ。
少し本筋からはそれるが、コロナウイルスの発生源とされる中国の武漢についてどのようなイメージを持っているだろうか? テレビ報道もあったのでそれなりの都会という認識は広がったと思うが、本書によれば「『フォーチュン誌』のグローバル500にランクインするグローバル企業500社のうち200社以上が事業拠点を構えている」という。武漢は中国の地方都市ではなく、東京などと同じく国際都市の一つだったわけで、ある意味コロナウイルスが世界に広がったのも当然だと言えるのかもしれない。
さて、本書の最初に示されるのが、時代の大きな変化に付いていけていない多くの日本企業の経営者の実態である。デジタルトランスフォーメーション(DX)に代表されるデジタル技術の進化によって、いま「第四次産業革命」と呼ばれる動きが起きている。これによってどのような成果を期待するのか?という問いを日本と欧米の経営者にすると、その認識には大きな違いがある。日本の経営者は軒並み、「生産性の向上」「コスト削減」を重視しているのに対して、欧米の経営者は「ポジティブな社会影響力の増大」を重視している。
つまり、欧米の経営者は「両極化」を意識し、「経済価値」と「社会価値」を同時に追求することを考えているのだ。その違いは、次の質問で決定的になる。「社会課題解決の取り組みに注力する理由」で、「収益の創出」を上げた日本の経営者はたった1%だったのに対して、欧米の経営者は42%がこれをあげている。
本書では「日本の経営者は、社会課題解決を収益創出の機会という観点で経済価値の追求とつなげて捉える戦略的発想において、グローバル水準に比較して大きく立ち遅れていることが浮き彫りになった」と指摘している。
社会課題が大きくなっているからといって、株主からの利益要求も弱まるわけではない。本書で訴えているのは、「短絡的な二者択一の発想を脱却し、両極的なるものをつなぎ合わせていくことが大事」ということだ。そしてその際、デジタル導入を主目的とした変革(DX)ではなく、デジタルを手段として徹底的に活用して「両極」をつなぎ、ビジネスと経営のあり方自体を根本的に変革する(dX)ことが求められるという。
両極を見据えるにあたって見直すべきは「ズ―ムアウト」と「ズームイン」、つまり、短期と長期という時間軸だ。日本企業の中期経営計画は一般的に3~5年のスパンで発表されるが、変化のスピードに3~5年では追いつくことができない。一方で、長期的な視点に立てば、それでは短すぎる。10年超の長期と1年未満の短期の複眼思考で両極のバランスをとっていくことも、また課題となる。