ソニーを再定義する
長期の視点でもう一つ付け加える必要があるのが、会社の存在の再定義だ。これまで日本企業は、「自分視点でどうなりたいか」を社是、ミッションとして謳ってきた。しかし、これからは社会の中で、という視点を入れて、自己を再定義する必要がある。これは、ミッションではなく、パーパス(purpose=存在意義)だ。
本書で紹介されているのが、ソニーの事例。ソニーと言えば、創業者の井深大氏による「自由闊達にして愉快なる理想の工場の建設」が有名だが、現・CEOの吉田憲一郎氏の指揮の下で「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というパーパスを新しく定義した。
パーパスを定義するのに役立つ視点が、HX(ヒューマン・エクスペリエンス)だ。単なるCX(顧客体験)ではなく、HX(人間としての経験)へと範囲を広げて考える。つまり、単にモノやサービスを売って終わりという所からの発想の転換だ。
この発想の転換さえできれば、日本企業には大きなチャンスがある。デジタル技術により得られる様々なデータを縦横無尽に活用することで、工場内のカイゼンから、顧客の経験やその先にある社会課題の解決にまで視野を広げたカイゼンの展開が可能になるからだ。カイゼンという日本企業の得意技を活かすことができるというわけだ。しかも、和魂洋才というように、日本人にとって相反する両極的なるものをくっつけるのはお家芸だ。
「最適化する力」を活かし、「課題先進国」から「課題解決先進国」に変革することで、両極化の時代を飛躍と繁栄の時代にすることが出来る。コロナショックに対する視点を変えることで、両極化の時代は日本の強みを再定義する千載一遇の好機にすることができる」というのが本書のメッセージでありエールだ。
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。