具体的な外交・安全保障政策
上記のようなバイデン氏の発言および見解を咀嚼すると、第46代米国大統領が推進するより具体的な外交・安全保障政策には、以下の要素が含まれると想定される:
1. トランプ政権が大きなダメージを与えた同盟諸国との関係修復・強化にただちに着手する。できるだけ早期に日欧主要国首脳との会談を行う
2.NATOおよびアジア太平洋における日本、韓国、オーストラリア同盟諸国については、引き続き防衛分担の増強を求めるが、これらの諸国に対するアメリカのコミットメントを(前政権のような)金銭的取引の対象としない
3.中国の存在を最重要視し、中国の世界経済に対する挑戦に対処していくため、価値観を共有する「世界の民主主義国間の連帯coalition of world democracies」構築に早急に着手する
4.世界各国との通商においては、アメリカ国民の利益を守るため、相手国に対し「公平・公正なルール」の順守を求めていく
5.米軍事力の投入は目先の短期的目的のためではなく、長期的で戦略目的に合致したものでなければならない。「世界の警察官」となるのではなく、資源配分を厳格化する
6.北朝鮮核問題については、切迫した脅威であり、中国含め近隣関係諸国と緊密な連携の下に「非核化」実現に向けて協議していく。トランプ前大統領の時のような米朝首脳会談に安易に応じるつもりはなく、経済制裁強化を含め北朝鮮に対し厳しい姿勢で臨む
7. 世界における核拡散に歯止めをかけるため、ロシアとの核軍縮交渉を再開させるほか、イラン、サウジアラビなど中東地域の核開発問題をこれまで以上に重視していく。トランプ政権が破棄した「イラン核合意」については、英仏独中露の5か国との再協議の上、イランに対し、核開発の凍結と条約破棄以前への原状復帰を求めていく
一方、過去4年間のトランプ政権を振り返ると、包括的かつ多岐にわたる要素を盛り込んだ「ドクトリン」と呼ぶにふさわしい理念、基本方針は皆無だった。あったのは「アメリカ・ファースト」のスローガンと行き当たりばったりのトランピズムだけだった。そして外交面の“負の実績”として①パリ協定離脱②TTP脱退③イラン核合意破棄④WHO脱退⑤同盟関係の弱体化―などが挙げられるが、これらはすべて前任者のオバマ政権の成果抹消を意味した。
4年後の今、今度はバイデン新大統領が、トランプ政権の残した“負の実績”の清算を迫られることになる。民主、共和2大政党間政争にひきずりまわされる米国政党政治の弱点を露呈させる結果となった。
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