2024年4月24日(水)

補講 北朝鮮入門

2021年1月25日

早期の対米対話をあきらめ、内向き姿勢に

 金正恩は党大会で、過去5年間の「総括報告」を3日間にわたって行った。「祖国の自主的統一と対外関係発展のために」という第3章が、対外政策に関するものだった。前回大会での報告で「統一問題」と「世界の自主化」という二つの章に分けられていたものを合体させたものだ。

 党幹部の人事でも、対外政策を担う人物は後退した。李善権外相は政治局候補委員の末席であり、党国際部長だと見られる金成男は政治局候補委員にも入らず、中央委員の名簿で23番目だった。

 報告での扱いや幹部人事は、対外政策への関心が下がっていることを示す。米国の状況を考えれば、バイデン政権との交渉が早期に本格化する可能性は低いと見ているのだろう。この点は、「トランプ政権の成果を土台に米朝交渉を早く」と主張する韓国の文在寅政権より現実的だ。

 一方で金正恩は報告で、核能力を向上させると強調し、原子力潜水艦や超音速滑空兵器の開発にも言及した。米国を「最大の主敵」だと規定し、「誰が政権の座に就いても米国という実体と対朝鮮政策の本心は絶対に変わらない」とも主張した。

 金正恩は同時に、「強対強」「善対善」が対米政策の前提だと強調した。党大会閉幕に合わせた軍事パレードには、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を登場させなかった。米国を刺激しすぎることは避けたのであろう。

 自らが脅威であることを誇示し、米国を振り向かせようとする典型的なパターンだ。

 ここで気になるのは金正恩が報告で自国について「核保有国」だと語ったことである。北朝鮮は2012年の憲法改正で「核保有国」という言葉を憲法に書き込んだが、金正恩はトランプ大統領との関係が続いている間には口にしていなかった。最高指導者の言葉が憲法以上の重みを持つ北朝鮮にあっては注目すべきことだ。

 金正恩は結局、バイデン政権との交渉が早期に動くことはなく、制裁緩和も当面は望めないと考えているようだ。だからこそ新たな「5カ年計画」は「自力更生・自給自足」に主軸が置かれた保守的なものになっている。それでも従来型の戦術で脅威をアピールしておき、いざ米朝対話が始まれば「核軍縮」交渉に持ち込もうという腹積もりなのであろう。

 南北関係については、韓国の態度次第では状況改善もありうるという姿勢を見せるにとどめた。南北対話に過大な期待を寄せる文在寅政権を揺さぶっているのだろうが、大きな期待を寄せているようには見えない。

失敗を認める金正恩スタイルが色濃く

 金正恩は「開会の辞」で、前回の党大会で提示された国家経済発展5カ年戦略について「打ち立てた目標はほとんどすべての部門で遠く達成されなかった」と認めた。そして「経済事業をはじめとする各分野の事業で、重大な欠陥が露呈した」と指摘するとともに、「これは新たな発展段階、社会主義偉業の前進過程で現れる偏向であり、われわれの知恵と力でいくらでも掌握し、解決できる問題だ」と呼びかけた。

 各部門の幹部たちに「欠陥」を認めさせ、克服策を提示させる手法は、先代までには見られなかった金正恩独自のスタイルである。そうした傾向は初期から見られたが、今回の党大会ではいっそう色濃く現れた。

 金正恩は総括報告で、失敗の原因にも立ち入った。まずは「客観的要因」として、米国などによる経済制裁と毎年の自然災害、新型コロナウイルスの3点を列挙した。さらに、そもそも目標が「科学的な見積もりと根拠に基づいて明確に作成」されなかったことに加え、「今まで蔓延してきた誤った思想観点と無責任な活動態度、無能力」を批判し、「今のような旧態依然とした活動方式では、いつになっても国の経済をもり立てられない」と総括した。

 ただし、そこで採択された新たな5カ年計画は、前述の通り「自力更生・自給自足」を強調する内向きのものである。

 金正恩は「結論」で、「われわれの革命事業は順調に成し遂げられないだろう」と述べて国民に覚悟を求めた。金正恩が重視する「人民生活向上」の中核をなす農業についても、これから2、3年間の生産水準を2019年レベルに戻すことがうたわれたに過ぎない。

 早期の制裁緩和を望みえないことを前提とすれば仕方なかろうが、過去の党大会のような華々しさは感じられない。「地上の楽園」を掲げた金日成や、「強盛大国の大門を開く」と豪語していた金正日に比べれば、かなり現実的な目標と言えよう。


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