感情の揺らぎがないと、意志は強くはならない
私自身、強く影響を受けた上司はいます。その1人が、創業者である現在の会長です。私が人事の責任者をしていた時、直属の上司として、ほぼ毎日話していました。大企業の会長でありながら、一人ずつの社員からの声に丁寧に目を通し、返信をしていました。最先端のテクノロジーのこともよく勉強をしていました。厳しさの中にも愛情をもって育てていただいたと感謝しています。
その頃、「そばに反論するような人を置いておきなさい」「異論反論を言ってくる人を右腕にしなさい」とずっと言われていました。当時も、現在の立場になってからもその教えに従い、例えば「そこがおかしい」と言ってくれるメンバーにそばにいてもらっています。
恥ずかしい話ですが、私はすぐ油断をしてしまうタイプなのです。「こうした方がいいですよ」と常に言ってくれる人がいないと、成長や変化が止まってしまいかねません。会社やメンバーに迷惑をかけてしまいます。異論や反論を言ってくれる人に、意見が欲しい時や一時的にそばにいてもらうのではなく、提言をされつづける仕組みをつくりたい。その試みで自分だけではなく、事業と組織を変革させ続けたいと思っています。
ムカつく? もちろんありますけど(笑)、冷静になるとその大切さを痛感します。異論や反論は、結局、組織全体のためでもあるのです。私は時に油断をするし、慢心することもあります。ムカつくと思い、遠ざけてしまったら、自分のためにもならない。私自身が変わりつづけないと、エン・ジャパンもよい方向に変わりませんから。
異論や反論を受け止めて、何かを感じることは、成長していくうえに大事です。感情の揺らぎを通じて、意志は強くなります。振り返ってみると、今までの上司のほぼ全員がきちんと私の言うことを、反論や異論を含めて聞いてくれました。今になって有難さを感じます。
ただし、異論や反論をする場合は工夫が必要です。1つは、上司たちとの共通言語をなるべく使うこと。もう1つは、自分は上司と同じ志が持っているといった信頼関係を前提にすること。もちろん、メンバーとしてやるべきことをきちんとすることが必要です。
私が「使える部下」? 自分が、どのように見られているのかは上司に聞いてみないとわからないですね。これまでの上司からすると、大切にしたい人だったのかもしれないと思います。そのようになろう、とは心がけてきました。上司にとって、会社にとって大切な存在になろう、と意識してきました。だから、会社が大切にしていることを一生懸命大切にしてきたつもりです。上司とは仕事をするうえで、各論では多少意見の違いがあったとしても、最終的には上手くいっていたように思います。
今は、数百人のメンバーをリードする立場です。上司は、私を現在の立場に任せる際に「裏切ることはしないだろう」と感じたのかもしれません。私が他の会社を見ていても、多少の力不足があったとしても、会社にとって大切なことや志、価値観を共有できる人に任せようとするのが、人間の性だと思います。
現在の部署のメンバーには私に対し、「もっとこんなことをしてほしい」などと思っていてほしいです。「今のままで十分」と思われたら、慢心してしまいそうですから…(苦笑)。今の上司にも、より一層に要望してほしいと思っています。
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