2022年12月4日(日)

Washington Files

2021年3月1日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。著書に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

バイデンは大胆な反転攻勢を本格的に検討すべき

 そこでアメリカはバイデン新政権発足を機に、遅きに失したとはいえ、すでに「重大な競争関係serious competitive relationship」(サキ米大統領報道官)にはいった中国の動きをけん制するため、今後大胆な反転攻勢を本格的に検討すべき時が来ている。

 この点で極めて注目されるのが、アメリカの有力シンクタンクでバイデン政権に近いといわれる「アジア・ソサイエティ政策研究所Asia Society Policy Institute」(ASPI)が、今年に入り発表したタイムリーな新政権向けの提言だ。

 タイトルもそのものずばり『「一帯一路」への対案としてグローバル資金投資メカニズムの向上をめざせ』となっており、具体的に以下のように論じている:

1.アメリカにとって、アジア全域を対象としたインフラ投資という未達成の必要性は、保健上および地球温暖化対策のためにより緊急性の高いものとなってきた。アジア開発銀行はコロナ危機以前の段階において、アジアが2030年までに必要とするインフラ投資総額を総額26兆ドルと推定してきたが、すでに2016-2020年時点で不足分はGDP比2.4-5%相当と試算されている。

2.今後アジア各国が独自の行政改革などにより投資拡大に乗り出したとしても、求められるインフラ投資ギャップの40%を穴埋めするにとどまり、残り60%は莫大な民間投資に依存せざるを得なくなる。この点、長期インフラ投資は、政府―民間パートナーシップ(PPP)の一層の促進、多国間開発銀行(MDB)の強力な運営支援から多大な恩恵を享受できることになるはずだ。

3.中国の「一帯一路」戦略は、インフラ投資不足分の一部負担をめざしている。ただその規模は、2017年を起点に今後10年間で1兆ドルを少し上回る程度しかない。さらに、このBRI戦略に基づくさまざまなプロジェクト自体が(ヒモつきなど)論議を呼び起こす性格ものであるにもかかわらず、これまでのところ、他のどの国も中国の規模に見合うだけの対案を示してこなかった。

4.BRIプロジェクトには多くの国が参加しているが、一方でアジア諸国は、中国一辺倒ではなく、インフラ投資を受けるパートナー国の多様化を大いに歓迎したいところだ。

 このように「アジア・ソサイエティ政策研究所」はインフラ投資の現状を説明した上で、アメリカが早急に打ち出すべき措置として①G20の他の諸国との緊密な連携の下に世銀および地域多国間銀行(MDB)の資金運用を拡大する②投資プロジェクト・アセスメントについてのMDBの豊富な知識と経験をも加味した上で、民間セクターからも出資を求め、インフラ投資の基盤を固める③政府―民間連携のインフラ投資モデルのフィージビリティについて話し合う「政府―民間G20」をアメリカ主導で招集する④これは世界81か国が参加するアフリカ・インフラ投資プロジェクト「Africa50」のアジア版というべきものであり、民間金融機関と政府機関の協同を目的としたMDBに支えられることになる―などを具体的に指摘している。

 アメリカはトランプ政権下の過去4年、「アメリカ・ファースト」のスローガンを前面に掲げ、発展途上国に対するインフラ投資、経済援助に対しては冷淡な反応しか見せてこなかった。

 しかしこの間に、東南アジア諸国連合(ASEAN)との経済関係拡大に象徴されるように、中国BRI戦略の効果はすでにはっきり現れ始めている。

 中国政府が公表した2020年1年間のASEANとの貿易実績によると、総額は前年比6.7%増の6840億ドル(約71兆円)となり、欧州連合(EU)を上回った。中国は対ASEAN直接投資でも前年より52%も増え、144億ドル(約1兆5000億円)に達したという(読売新聞報道)

 中国はさらに、昨年正式発足したばかりの日中韓、ASEANを中心とした地域包括的経済連携(RCEP=アールセップ)でも攻勢を強めている。アメリカはここでも蚊帳の外に置かれたままであり、これまでの孤立主義政策から早期に脱却しないかぎり、アジア・アフリカにおける中国プレゼンス拡大の勢いは止まらなくなる。 

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