2022年7月1日(金)

From NY

2021年4月21日

»著者プロフィール
閉じる

田村明子 (たむら・あきこ)

ジャーナリスト

盛岡市生まれ。1977年米国に単身留学し、1980年から現在までニューヨーク在住。著書に『ニューヨーカーに学ぶ軽く見られない英語』(朝日新書)、『知的な英語、好かれる英語』(生活人新書)、『女を上げる英会話』(青春出版社)、『聞き上手の英会話』(KADOKAWA/中経出版)など。翻訳書も多数。フィギュアスケートライターとしても知られており、『挑戦者たち-男子フィギュアスケート平昌五輪を超えて』(新潮社)で2018年ミズノスポーツライター賞受賞。

アジア人差別というもの

 さてニューヨークで、アジア人差別はあるのかという話に移る。きっとある、と思う。思うというのは、筆者も、筆者の周りの日本人の友人たちも、長年アメリカで暮らしてきて差別らしい差別を受けた記憶がほとんどないからだ。日常的に差別を受けるような土地だったら、こんなに多くの日本人は暮らしていないだろうし、筆者だって好き好んで40年も住んでいない。

 とはいえ、パンデミック発生後にアジア系が狙われた暴行事件が多発している。また本人の目の前で言わなくても、何となくアジア人を見下している白人というのは少なからずいるだろう。筆者が普段交流しているのはごく普通の人たちなので、ハイソサエティや超エリートクラスに属している人々の、アジア人に対する偏見の度合いというのは、肌身で感じたことがない。

 一度オノ・ヨーコ氏をインタビューする機会に恵まれた時、彼女に対するバッシングの根本にはアジア人差別があった、と本人から伺った。それはおそらく本当のことだろうと思う。

鍵になるのは「ソーシャルスキル」

 だが(しつこいけど)40年ニューヨークで暮らしていて感じるのは、現在のアメリカでは肌の色や人種よりも、「言語能力」そして「ソーシャルスキル」(社交術)の違う人間に対する差別のほうが強いのではないか、ということだ。筆者は過去に数冊、英語社会のサバイバルに欠かせないソーシャルスキルに関する本を出してきたが、チップの問題も含めて、まだまだ理解されていない習慣の違いは多い。

 日本でも、理解のできない言葉を大声で話し、ゴミの出し方も知らない、マナーのない騒がしい外国人が隣に引っ越して来たら、誰でも嫌なのではないか。だからといって、人種差別をするわけではない。肌の色が違う外国人でも、日本語が流暢で、日本のマナーをきちんと心得た相手だったら、「日本人以上に日本的な面白い外人さん」として、みんなから人気者になるだろう。

 アメリカ人も、マナーをそれなりに重視する。たとえば日本ではお店で「いらっしゃいませ」と言われても、特に返事をする必要はない。だが英語社会では、お店の人に「Hello, how are you today?」と言われたら、最低でも「Hello」と笑顔を返すのがマナーだ。視線も合わせずに仏頂面して勝手に席に座ったりすると、「言葉もマナーも知らないお上りさんが来たぞ」という扱いを受けることになる。チェックに予めサービス料が含まれていた、という人たちは、恐らくこの最初の勝負でしくじってしまったのではないだろうか。

 言葉がわからない。習慣がわからない。それは仕方のないことで、恥ずかしいことではない。でも旅行前に最低限のあいさつや現地のマナー、簡単な会話くらいは身につけていけば、嫌な思いをする確率は劇的に減るはずだ。

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。

関連記事

新着記事

»もっと見る