From NY

2021年2月14日

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田村明子 (たむら・あきこ)

ジャーナリスト

盛岡市生まれ。1977年米国に単身留学し、1980年から現在までニューヨーク在住。著書に『ニューヨーカーに学ぶ軽く見られない英語』(朝日新書)、『知的な英語、好かれる英語』(生活人新書)、『女を上げる英会話』(青春出版社)、『聞き上手の英会話』(KADOKAWA/中経出版)など。翻訳書も多数。フィギュアスケートライターとしても知られており、『挑戦者たち-男子フィギュアスケート平昌五輪を超えて』(新潮社)で2018年ミズノスポーツライター賞受賞。

 ニューヨークで屋内飲食が禁止になる少し前、マンハッタンの寿司屋のカウンターで、サウスカロライナ州で寿司屋を経営しているという日本人夫婦と知り合いになった。

 「サウスカロライナにも、お寿司屋さんがある時代になったんですね」感慨深くそう言うと、「でも開店したての頃は、1日待ってもお客さんが一人も来ない日もありましたよ」と、ご主人が苦笑いした。

(griffunk/gettyimages)

「魚臭い!」と捨てられたおかき

 パンデミック前にはニューヨーク市内だけで、日本食レストランが2万軒あったと言われている。でも筆者が高校時代を過ごした1970年代後半のノースカロライナの片田舎には、日本食というものは存在しなかった。

 ある日、はるばる日本から届いた小包の中に入っていたおかきを、同級生たちにおすそ分けしようと袋を開けた。佃煮や干し物などは無理でも、おかきくらいは食べるだろう。

 そう考えた筆者は、甘かった。

 「なに、これ?」

 「この黒いの、なに?」(海苔である)

 学生たちの顔が、ほとんど恐怖で歪んでいる。勇気を出した男の子が一人、おかきを一つ手にとると、クンクンと念入りに匂いを嗅いだ。そして端っこをゆっくり用心深く、ほんの3ミリばかり、ぱり、っと齧ったかと思うと、「ヤック!」(おえっ!)と叫び、次の瞬間ゴミ箱に投げ捨てた。

 海の向こうから母が送ってくれた、貴重なおかきが…。

 「魚臭い!」というのが、彼の感想だった。

 毎日、脂っぽいハンバーガーやホットドッグ、ケチャップをたっぷりかけたフレンチフライばかり食べている彼らの味覚には、海苔も醤油もなぜか「魚臭い」と感じるらしい。

「どこに行っても同じものが食べられる」安心感

 過去20年ほどで、寿司やラーメンなどの日本食は世界的大ブームになった。でもその一方、田舎に住むアメリカ人の中には、まだまだ馴染みの薄い食べ物に驚くほど強い拒絶反応を示す人も少なくない。彼らは食生活に、バラエティなど求めない。子供の頃から食べてきた、いつも同じものを食べることが一番安心なのである。

 では食に興味がないのか、というとそれともちょっと違うようだ。

 友人の叔父は、住んでいるヴァージニア州から車でニューヨークに遊びに来るとき、なぜかシリアルからコーラの缶まで、全て普段自分が食べ慣れている食料を抱えてやってくる。そして滞在中は、ほとんど持参したものしか、口にしないのだという。コーラくらいニューヨークでも手に入ると言っても、なぜなのか味が違うと譲らないのだそうだ。

 マクドナルド、KFC、デニーズ、ピザハットのような全米の大手チェーンが根強い人気があるのは、ジャンクフードは口当たりが良いからだけではない。「違う土地に行っても同じものが食べられる」という安心感からだ、とアメリカ人の友人に聞いた。

 成田空港のマクドナルドも、パンデミック前まで西洋人の観光客でいつも満席だった。日本の最後の食事なら、和食を食べたらどうかと思うのは大きなお世話なのだろう。

 旅行に行けばその土地の名物、珍しい料理を食べるのが楽しみの一つと感じる日本人とは、根本的に感覚が違うのである。

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