From NY

2020年9月27日

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田村明子 (たむら・あきこ)

ジャーナリスト

盛岡市生まれ。1977年米国に単身留学し、1980年から現在までニューヨーク在住。著書に『ニューヨーカーに学ぶ軽く見られない英語』(朝日新書)、『知的な英語、好かれる英語』(生活人新書)、『女を上げる英会話』(青春出版社)、『聞き上手の英会話』(KADOKAWA/中経出版)など。翻訳書も多数。フィギュアスケートライターとしても知られており、『挑戦者たち-男子フィギュアスケート平昌五輪を超えて』(新潮社)で2018年ミズノスポーツライター賞受賞。

NY公共図書館(筆者撮影)

 9月14日から、ニューヨーク市でバス、地下鉄、近郊電車などに乗車する際に、マスクの着用を拒否した場合、50ドルの罰金が課せられることになった。

 ニューヨークでは4月17日から交通機関利用時のマスクの着用が義務付けられてきたが、地下鉄やバスでマスク無しの人をたまに見かける。冬の第二波が来る前に、アンドリュー・クオモ知事がマスク着用を徹底させるため、罰金制度に踏み切ったのだ。

 初日14日は地下鉄の駅などで持ち合わせがない人に使い捨てマスクを配っており、罰金を科せられた人間はゼロだったという。

 もとより魔女狩りのようにしてマスクのない人間を捕まえ、罰金徴収することが目的ではない。あくまで目的は、着用率を100%にすることだ。

 パンデミック以来、地下鉄、バスなどの乗車率は極度に落ち込み、MTA(メトロポリタン・トランスポーテーション・オーソリティ)は今年に入って運賃だけで42億ドルの損害を被っている。マスクの着用を徹底させ、少しでも人々に公共交通機関に戻ってきて欲しいのだ。

 筆者は4月の末から少しずつ地下鉄に乗っているが、知人たちの中にはこの半年間一度も利用していないという人も少なからずいる。経済再開のめどをたてるには、人々が不安なく移動をできることが必須。そのために、公共交通機関でのマスク着用を徹底させることが不可欠なのである。

ニューヨーカーのマスク着用率の高さ

 もっともニューヨーカーのマスク着用率はおよそ90%と言われていて、これほど強烈な自我と個性が集まったニューヨークにしては驚異的なことだ。特にこの国ではパンデミック前には医療関係者以外マスクなどつける習慣はゼロだったことを考えると、今の光景は夢を見ているかのようである。

 ギャラリーに務めるアメリカ人の知人は、こう説明する。

 「もともとアメリカ人は、他人から指図されることが大嫌い。でもマスクの着用に関しては、ニューヨークではクオモ知事の影響力が大きかったと思う。3カ月ほとんど毎日カメラの前でブリーフィングを行って、アメリカの知事の中でもいち早くマスクの重要性を訴えかけた。他者への感染を防ぐため、というのに説得力がありました」

 マスクの効力は明らかで、かつて感染の中心地と言われたニューヨークだが、現在は検査を受けた人の陽性率は1%前後で落ち着いたままだ。

 「それは、マスクをしているのは快適ではないわよ。でも運転するときに、シートベルトをするのと同じこと。自分と他者の安全のためにね」と知人は続けた。

アメリカ全体の感染率は下がらない理由

 その一方で、アメリカ国内全体で見る感染率は再び上昇しつつある。過去7日間の間に、全米で最も多いテキサス州では、なんと4万7500人もの感染者を出している。

 またCDC(アメリカ疾病予防管理センター)の統計による、人口比で最も感染率の高い州のトップ5を見ると、ルイジアナ、フロリダ、ミシシッピ、アラバマ、アリゾナの順だ。お気づきの通り、共和党が強い州ばかりなのである。

 これはマスク着用普及率と因果関係があると思うのは、筆者だけではないだろう。COVID-19を軽視し続けるトランプ大統領の支持者はマスクに否定的というのは、アメリカではすでに明確な事実である。

 9月13日、トランプ大統領はネバダ州ラスベガス近郊の屋内施設で選挙キャンペーンの集会を開催。ネバダ州では50人以上の集会は禁止されているにも関わらず、何千人もの人々が密室状態の会場に集まった。この集会ではマスク着用を義務付けられていたのは、テレビカメラに映るトランプ大統領の最前列の聴衆のみだった。

 「そもそもマスクが感染を防ぐとは、信じられないな」

 「COVID19の死亡率はたいして高くないから、マスクの必要なんて感じません」

 「マスクをつけるかつけないかは、個人の自由。ここは自由の国でしょ」

 マスクを着用していなかったトランプ支持者たちは、テレビインタビューで口々にこのように語っている。

 5月には、カリフォルニアのフンボルド郡でロックダウンへの抗議運動に参加した女性が「Muzzles are for dogs and slaves. I am a free human being(口枷は犬や奴隷のためのもの。私は自由な人間よ)」と、口枷をつけられた黒人奴隷のイラストつきのサインを掲げたところを撮影され、さすがに大炎上するという騒ぎもあった(本人は後にSNSで謝罪。「誰かから手渡されたサインを良く考えずに掲げた」という苦しい言い訳をした)。

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