ばったり会った同級生の事情
筆者がこうしてノースカロライナ州からニューヨークに引っ越して、42年がたった。同じ寮制の高校でも、南部と北部の学校では同じ国とは思えないほど違っていたが、それについてはまたどこかで書く機会もあるだろう。
レベッカの言ったように、ニューヨークには「汚くて、うるさくて、クレイジー」という一面もある。でも同時に、どんな背景の人間でも自分らしく生きることができる、懐の深い街だと思う。人生の大半をここで暮らしながらも、未だにニューヨークが嫌いになったことは一度もない。
ニューヨークの大学を卒業して社会人になってから、ある日偶然にもノースカロライナの高校の知り合いにばったり出会った。
「失礼ですけど、あなたナンシーじゃない?」
そう声をかけると、相手はぽかんとして私の顔を見た。背が高く、生徒会の役員をしていた目立つ上級生だった。
「ノースカロライナの高校に行ったでしょう」
彼女の目が、驚きで大きくなった。全校100人ほどの小さな高校なのに、こんな偶然があるのだろうかと盛り上がり、その日の夕方一緒に食事をした。
食事もデザートに近づいたころ、ナンシーは自分は実はレズビアンなのだと告白した。
サザンパプティストを含む福音派は、LGBTQを「神に背く存在」として否定している。カソリックから福音派に改宗したマイク・ペンス元副大統領が、下院議員時代に職場でのLGBTQへの差別を禁じる条例に反対票を入れたことは、良く知られている。
ナンシーは、生まれ育ったコミュニティには居場所が見つけることができずに、ニューヨークに出てきたのだった。
「今は女性のパートナーと一緒に暮らしているの」と言った彼女の顔は、とても幸せそうに輝いていた。
今のアメリカは、筆者が渡米してからかつてなかったほど保守派とリベラルが分断している。振り返ってみれば、南部の福音派クリスチャンの中で過ごした15歳から16歳にかけての1年半は、この国の側面を理解する上でかけがえのない貴重な体験だった。
新政権は、この深くなった亀裂をどう修正していくのだろうか。当時の知り合いの顔を一人一人思い浮かべながら、半ば懐かしく思い返した。
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