元横綱若乃花でタレントの花田虎上氏が、ニューヨークの高級レストランで「人種差別」を受けた体験について、あるテレビ番組で語ったという記事を目にした。
ニューヨークの高級レストランに予約して奥様と出かけた時、案内されたのがトイレの横だったとのこと。だが花田氏は、自分がアジア人だから仕方ない、と思って食事をしたという。ところが会計をした際、10~15%のチップを払ったら、「少ない、いい加減にしろ! って怒鳴られたというのだ。
まず花田氏には、心から同情申し上げる。旅先で奥様と美味しい食事をしようと張り切って行ったのに、不愉快な思い出となってしまってお気の毒だ。いくら花田氏がお金持ちでも食事代はそれなりの金額だっただろうし、それで怒鳴られたというのは、さぞや不快であったことだろう。
どこのレストランだったのか。実際の室内の様子はどうなっていたのか。ウェイターあるいはウェイトレスが、どのような態度を取ったのか。その場にいなかった筆者には、わからない。わからないけれど、ここでは40年以上ニューヨークに住んでいる筆者の経験を基にして、一般的な意味で検証してみたい。
高級レストランのトイレの場所
まずテーブルがトイレの横だった、ということ。ニューヨークでは一般的に、高級なレストランほど、トイレの場所はわかりにくいところにある。ちょっと奥まった廊下の先や、階段を下りた地下など。
食事を楽しんでいる最中に、他人がトイレに出入りするドアの開閉が丸見えのお店は、たとえ値段が高くても「高級レストラン」とはいえない。さらに、そのドアのすぐ横にテーブルが設置してあったなら、そこは流行りのお店だったのかもしれないけれど、あまり良い店ではなかったのではないか、と思うのだ。
繰り返すが、筆者はレストランの名前がわからないので、断定はできない。あくまでニューヨークの一般論である。
でもここで大事なのは、店が高級だったかどうか、ではない。「予約をしていたのに、気に入った場所のテーブルがもらえなかった」ということ。これはニューヨークに限らず、筆者もたまに経験している。それがこちらがアジア人だったための差別なのか、それは筆者にはわからない。
でも重要なのは、通されたテーブルが気に入らなかったら、できるだけ早く席を案内してくれた案内係かウェイターにそう伝えることだ。
テーブルが気に入らなかった場合は
私たち日本人は、一般的に苦情を言うことがかなり苦手だ。おそらく花田氏も、苦情を言ってさらに嫌な思いをするくらいなら、面倒だから我慢しようと思ったのだろう。また英語があまり得意でなくて、我慢してしまったのかもしれない。
でも(しつこいが)ニューヨーク在住40年の筆者が保証する。こちらがアジア人でも、穏やかな声で「お願い」すれば、絶対に嫌な思いをすることはない。
「Excuse me, can we move to another table?」
(すみませんが、他のテーブルにしてもらえますか?)
これで十分。言い訳など必要ない。気に入らなかったから、で立派な理由になる。最も、ここで横柄な態度は禁物だ。「英語社会では自己主張が大事。なんでもストレートに言わないと伝わらない」と良く耳にする。それも全く間違いではないのだが、いきなり相手にかみつくような英語を話す日本人を、たまに見かけることがある。
相手が何国人でも、人間は感情の生き物。「こちらは客だ」という高飛車な態度は、逆に「野蛮人」と見下されるし、もっとも嫌われる。かといって、必要以上に申し訳なさそうな態度をとる必要もない。
指を指して「Is it possible to sit over there?(あちらに座っても良いですか?) 」あるいは「 Can we move to another table?(別なテーブルに移っても良いですか?)」とゆっくり、はっきり、日本人アクセントばりばりの英語で結構。威厳を持って穏やかに言う。移動する際は、自分の所持品だけを持って。お水やメニューなどテーブルの上にあるものは、ウェイターが運んでくれる。
違うテーブルに移ったら「Thank you very much.」もし英語にちょっと自信があれば「 I really appreciate it.」(とても助かりました)と、心を込めてお礼を言うこと。感じの良い人にはつい親切にしてあげたくなる、という大原則はどこの国でも変わらない。
もっとも、満席で他のテーブルは全て予約でふさがっている、という場合もある。「残念ながら」と移動を断られたら、我慢するか、他の店に行くか、考えて決めよう。