2022年7月3日(日)

From NY

2021年4月21日

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田村明子 (たむら・あきこ)

ジャーナリスト

盛岡市生まれ。1977年米国に単身留学し、1980年から現在までニューヨーク在住。著書に『ニューヨーカーに学ぶ軽く見られない英語』(朝日新書)、『知的な英語、好かれる英語』(生活人新書)、『女を上げる英会話』(青春出版社)、『聞き上手の英会話』(KADOKAWA/中経出版)など。翻訳書も多数。フィギュアスケートライターとしても知られており、『挑戦者たち-男子フィギュアスケート平昌五輪を超えて』(新潮社)で2018年ミズノスポーツライター賞受賞。

チップの15%は低いのか

 さてチップを10%~15%を置いたら、怒られたという話について。「少ない。いい加減にしろ!」というのがどういう英語の表現だったのだろう。普通は「何かご不満がありましたでしょうか?」と言ってくるから、本当に「Give me a break!(いい加減にしろ)」と言われたのなら、やはりそこは高級なレストラン、少なくても良いレストランではなかったと思う。(花田さん、次回ニューヨークに来ることがあれば、もっとましなレストランをご紹介しますのでご連絡ください)

 それはともかくとして、ガイドブックに何と書いてあるのか知らないが、現在のニューヨークのチップのスタンダードは20%だ。高級なレストランだったらそれが最低ライン。特に感じの良いサービスをしてもらったり、何か特別な面倒をかけたりしたら、25~30%くらいおいていく(NY市内以外では、15%くらいでOK)。

 $100のチェックだったらチップが$20。$200だったら、$40。ええ!そんなにチップに置かなきゃいけないの!! という気持ちはとても良くわかる。でもそれがニューヨークの習慣なので、オーダーするときに、最初からチップを含んだ予算を頭の中で考えておかなくてはならないのだ。

 そもそもアメリカの「チップ」というのは、料亭や旅館で、仲居さんにポチ袋に入れて包む心づけとは全く性質の違うものだ。ウェイター、ウェイトレスのお給料の一部であり、レストランのテーブルについた時点で、普通のサービスをしてもらったらスタンダードのチップを払う、という暗黙の了解がある。

 筆者はもうずいぶん昔だが、従妹が観光に来てアテンドしたことがある。その後実家に帰ったら、従妹の口から「明子ちゃんが気前よくチップをポンポンはずんでびっくりした」という話が親戚一同に広まっていて、当時まだ学生の身分だった筆者は大汗をかいた。アメリカのチップは心づけではない。サービスを受けたら、払う義務なのである。

アメリカの「service」はサービスではない

 ついでに「サービス」というカタカナ英語が、さらに物事をややこしくしてくれている。

 チップはサービスに対して払うもの、と言われると日本人は何か特別なことをしてもらった時に払う、と誤解してしまいがちだ。でも実は「ちょっとサービスしておきますね」の日本語のサービスは、英語で「complimentary」。英語のServiceは、serveする、要するに業務を実行するという意味だ。

 英語社会のレストランでは、注文を取り、飲み物や料理を運んできて、食後にデザートの注文を聞きに来て、最後にチェックを持ってくる、というスタンダードな業務を称して「Service/サービス」と呼ぶ。だからものすごく待たされたとか、あまりにもウェイターの態度が悪かったとか、何度も注文を間違えたとかいう異常事態がない限り、20%のチップを置いていくのが普通なのだ。

 筆者は過去5年くらいの間で、20%以下のチップを置いたことが1回だけある。その時はマネージャーを呼んで、「これこれこういう理由で、今日はチップはこれだけしか置けません」と説明をした。満足のいかないサービスを受けた上に、こちらがまるで悪いことしたかのようにコソコソと食い逃げをするような気分で帰るのが嫌だったためだ。マネージャーは「それは申し訳ない。次回はそういうことがないよう気をつけるので、またいらしてください」と言ってくれた。

 ちなみにチップの額で悩むのは日本人だけではない。知り合いのドイツ人が5%のチップをおいて出そうになって、慌てて止めたことがあった。ヨーロッパではチップは端数をおくので十分という国も多い。

 国によって違うのは面倒だから、いっそみんな日本のようにサービス料込にして欲しいと筆者も思う。著名なレストランプロデューサーが傘下の店でそれを試みたことがあったものの、あまり評判が良くなくてやめてしまった。

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