2022年7月5日(火)

CHANGE CHINA

2021年5月18日

»著者プロフィール
閉じる

唐辛子 (とうがらし)

コラムニスト・翻訳家

中国出身、日本在住。日中両国のメディアでコラムを書きながら、翻訳と著書も執筆中。主著に『日本式中毒』(広東人民出版社)、『漫画脳』(上海交通大学出版社)、中国語に訳した主な書籍『漱石の思ひで』(北京社会科学文献出版社)など多数。

「苦しむ女性の力になりたい」

 しかし、中国でのプロボノ活動の展開は思ったよりもずっと難しかった。まずは資金難に直面した。民間組織のため政府資金がもらえず、中国国内の寄付も少ないので、わずかな国際的資金援助で存続していた。しかも、2017年に中国政府が制定した「海外非政府組織国内活動管理法」の施行によって、海外からの資金寄付は明らかに制限され、公安の審査も厳しくなった。

 政府の理解も得られにくい。有志の弁護士たちは、法律に基づく「正義」の実現を使命とするため、社会制度の変革や法律制度の改善を職業目標として努力せねばならない。そのため、政府との衝突や矛盾が避けられない。民主主義国家であれば対話で問題解決が図られるが、中国では、政府による公権力の強行がされやすい。これは15年、「709事件」と呼ばれる、政府が行った人権派弁護士たちの全国的な一斉拘束に象徴される。

 郭さんたちは、何の理由も説明されぬまま2度の取り締まりを受けた。それでも屈することなく、北京に「千千弁護士事務所」を立ち上げ、現在でも取り締まりを受ける可能性を覚悟しながら、プロボノ活動を継続している。

社会的立場が弱い女性のために奮闘する郭建梅氏(右から2番目)

 人材の確保にも苦労した。20人以上のプロボノ弁護士が在籍したこともあったが、今の事務所は6人しか残っていない。「プロボノ」という無償援助の性質により、給料が低いうえ〝どん底〟にいる社会的弱者の代弁者として毎日、社会の暗い面に向き合わなければならない。

 公安の暴力で息子を失ったうえ、自身も陳情へ出向く途中に事故で重傷を負った母親、家庭内暴力に堪え切れず夫を殺して死刑判決を受けた妻、親が出稼ぎに出て不在の間に家で性的暴行を受けた少女……。相談者の惨状に堪えられず、仲間たちは次々と離れていった。

 郭さん自身も2年ほどうつ病を患った。「明るい社会を求めるのなら、まず自らが社会の変革に燃えなければならない」との信念を持っていたが、わが国の実情はこんなにも辛く、心が痛む状態なのか、と感じたという。

 25年間のプロボノ活動では、1500件以上の訴訟を行い、250回以上の女性権益講座を開催した。さらに、5万人以上に法律諮問サービスを提供した。加えて、「児童買春・児童猥褻(わいせつ)禁止法」や「家庭内暴力反対法」、「女性労働者保護特別条例」などの法律の整備と推進に力を入れた。しかし、近年政府からの弾圧はますます厳しさを増している。

 「私は今年で60歳になる。いつまでこの活動を継続していけるだろうか」。郭さんは自問するようにこう言った。一方で、「人口13億人の超大国では、私たちの活動はちっぽけなものかもしれない。それでも声を上げられない社会的弱者はまだまだいる。私たちが、苦しんでいる彼女たちの一筋の光になりたい。そして、この活動に共感してくれる仲間には『一緒に光になろう』と呼びかけていきたい」とも語ってくれた。

 郭さんたちの戦いは、これからも続いていく。

Wedge5月号では、以下の特集を組んでいます。全国の書店や駅売店、アマゾンなどでお買い求めいただけます。
■昭和を引きずる社会保障 崩壊防ぐ復活の処方箋
PART 1  介護         介護職員が足りない!  今こそ必要な「発想の転換」
PART 2  人口減少   新型コロナが加速させた人口減少 〝成長神話〟をリセットせよ    
PART 3  医療        「医療」から「介護」への転換期 〝高コスト体質〟からの脱却を     
PART 4  少子化対策 「男性を家庭に返す」  これが日本の少子化対策の第一歩
PART 5  歴史        「人口減少悲観論」を乗り越え希望を持てる社会を描け       
PART 6  制度改革    分水嶺に立つ社会保障制度  こうすれば甦る
Column 高齢者活躍 お金だけが支えじゃない  高齢者はもっと活躍できる
PART 7  国民理解    「国家 対 国民」の対立意識やめ真の社会保障を実現しよう

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。

◆Wedge2021年5月号より

 

 

関連記事

新着記事

»もっと見る