2024年12月22日(日)

海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2021年6月17日

 今回のテーマは、「『よりよい世界の復興』対『一帯一路』G7サミットとバイデンの巻き返し」です。英南西部コーンウォールで6月11~13日まで開催された主要7カ国首脳会談(G7サミット)では、ジョー・バイデン米大統領の思惑が随所に表れていました。なぜバイデン大統領は他のリーダーよりもいち早く現地入りをしたのでしょうか。そこで国内外に向けてどのようなメッセージを発信したのでしょうか。また、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に対してどのような対抗軸を築いたのでしょうか。

 本稿では世論調査結果を交えながら、G7サミットにおけるバイデン氏の意図を振り返ってみます。

(farosofa/gettyimages)

なぜG7開催直前の「タイミング」だったのか?

 バイデン大統領はG7サミットに参加する他のリーダーよりも早く現地入りをして、中低所得国に対する5億回分のワクチン提供を公表しました。なぜ、G7サミット開催直前のタイミングを狙ったのでしょうか。

 注目度を高めて、G7サミットにおける主導権を握るという思惑があったからでしょう。

 バイデン氏は6月10日、米製薬大手ファイザーのアルバート・ブーラCEO(最高経営責任者)と共に現れ、演説を行い「米国のワクチン提供は見返りを求めない」と語気を強めました。「ひも付き」のワクチン外交を展開する中国とロシアを暗に批判し、米国は「世界の人々の命を救う」と強調しました。「米国は第2次世界大戦で民主主義の兵器庫であった」と指摘したうえで、世界的なコロナ禍で「米国はワクチンの兵器庫になる」と約束して、人道支援に本格的に乗り出す決意を示しました。

 中国とロシアとは異なり、米国のワクチン提供は「人権」に基づいているというメッセージを発信したのです。

ミシガン州の労働者を称賛した意図

 バイデン氏は国内向けのメッセージも忘れませんでした。演説の中で中西部ミシガン州カラマズーのファイザーの工場で働く労働者に誇りを感じていると語りました。「米国の労働者がアフリカ、アジア、ラテンアメリカ、カリブ海の人々の命を救うためにワクチンを生産する」と述べて、2020年米大統領選挙の激戦州ミシガンの労働者を称賛しました。労働者はバイデン氏の支持基盤だからです。

 ちなみに、ホワイトハウスによれば、ファイザーのワクチン生産に携わる労働者数は、中西部ミシガン州カラマズーが約3000人、カンザス州マクファーソンが約2000人、ミズリー州チェスターフィールドが約700人、東部マサチューセッツ州アンドーバーが約1800人で、合計約7500人になります。

 バイデン大統領は米連邦政府がファイザーのワクチンを買い上げるとも述べました。20年大統領選挙でバイデン氏は「バイ・アメリカン法」によって、「メイド・イン・アメリカ」の製品を政府が買い上げ、雇用につなげるとアピールしました。つまり、「公約を果たす」というメッセージを国内に向けて発信した訳です。演説は完全に計算されたものでした。


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