海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2021年6月17日

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海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授 心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08年~10年、12年~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年と12年米大統領選挙で研究の一環として日本人で初めてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。激戦州南部バージニア州などで4200軒の戸別訪問を実施。10年、14年及び18年中間選挙において米下院外交委員会に所属するコノリー議員の選挙運動に加わる。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。中西部オハイオ州、ミシガン州並びに東部ペンシルべニア州など11州で3300軒の戸別訪問を行う。20年民主党大統領候補指名争いではバイデン・サンダース両陣営で戸別訪問を実施。南部サウスカロライナ州などで黒人の多い地域を回る。著書に「オバマ再選の内幕」(同友館)など多数。

 今回のテーマは、「『よりよい世界の復興』対『一帯一路』G7サミットとバイデンの巻き返し」です。英南西部コーンウォールで6月11~13日まで開催された主要7カ国首脳会談(G7サミット)では、ジョー・バイデン米大統領の思惑が随所に表れていました。なぜバイデン大統領は他のリーダーよりもいち早く現地入りをしたのでしょうか。そこで国内外に向けてどのようなメッセージを発信したのでしょうか。また、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に対してどのような対抗軸を築いたのでしょうか。

 本稿では世論調査結果を交えながら、G7サミットにおけるバイデン氏の意図を振り返ってみます。

(farosofa/gettyimages)

なぜG7開催直前の「タイミング」だったのか?

 バイデン大統領はG7サミットに参加する他のリーダーよりも早く現地入りをして、中低所得国に対する5億回分のワクチン提供を公表しました。なぜ、G7サミット開催直前のタイミングを狙ったのでしょうか。

 注目度を高めて、G7サミットにおける主導権を握るという思惑があったからでしょう。

 バイデン氏は6月10日、米製薬大手ファイザーのアルバート・ブーラCEO(最高経営責任者)と共に現れ、演説を行い「米国のワクチン提供は見返りを求めない」と語気を強めました。「ひも付き」のワクチン外交を展開する中国とロシアを暗に批判し、米国は「世界の人々の命を救う」と強調しました。「米国は第2次世界大戦で民主主義の兵器庫であった」と指摘したうえで、世界的なコロナ禍で「米国はワクチンの兵器庫になる」と約束して、人道支援に本格的に乗り出す決意を示しました。

 中国とロシアとは異なり、米国のワクチン提供は「人権」に基づいているというメッセージを発信したのです。

ミシガン州の労働者を称賛した意図

 バイデン氏は国内向けのメッセージも忘れませんでした。演説の中で中西部ミシガン州カラマズーのファイザーの工場で働く労働者に誇りを感じていると語りました。「米国の労働者がアフリカ、アジア、ラテンアメリカ、カリブ海の人々の命を救うためにワクチンを生産する」と述べて、2020年米大統領選挙の激戦州ミシガンの労働者を称賛しました。労働者はバイデン氏の支持基盤だからです。

 ちなみに、ホワイトハウスによれば、ファイザーのワクチン生産に携わる労働者数は、中西部ミシガン州カラマズーが約3000人、カンザス州マクファーソンが約2000人、ミズリー州チェスターフィールドが約700人、東部マサチューセッツ州アンドーバーが約1800人で、合計約7500人になります。

 バイデン大統領は米連邦政府がファイザーのワクチンを買い上げるとも述べました。20年大統領選挙でバイデン氏は「バイ・アメリカン法」によって、「メイド・イン・アメリカ」の製品を政府が買い上げ、雇用につなげるとアピールしました。つまり、「公約を果たす」というメッセージを国内に向けて発信した訳です。演説は完全に計算されたものでした。

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