今回のテーマは、「『人権』対『賠償金』トランプの新たな選挙戦略」です。ドナルド・トランプ前大統領が6月5日(現地時間)、南部ノースカロライナ州の共和党大会で演説を行いました。同州は20年米大統領選挙で激戦6州の1つでした。24年大統領選挙でも激戦州になることが予想されます。
トランプ前大統領は演説で、中国に対して新型コロナウイルが米国と世界にもたらした代償として賠償金を請求しました。本稿ではその意図を中心に述べます。
20年米大統領選挙の「復讐」
トランプ氏は冒頭からバイデン批判を展開して、「選挙演説」を始めました。まず、ロシアのハッカー集団「ダークサイド(DarkSide)」が米石油パイプライン企業コロニアル・パイプラインにサイバー攻撃を仕掛け、業務停止に追い込み、その結果ガソリン価格が高騰したことを取り上げました。
そのうえで、ロシアがサイバー攻撃を行うのは、「米国とリーダー(ジョー・バイデン大統領)に敬意を払っていないからだ」と主張しました。「自分はバイデンと違ってプーチン大統領と良い関係を保ち、彼から尊敬されていたのでサイバー攻撃を受けなかった」と、言いたかったのでしょう。声のトーンも完全に選挙モードに入っていました。
次に、トランプ前大統領は米国とメキシコとの国境における移民政策に関してバイデン氏を批判しました。MS13という中米系のギャング組織のメンバーが不法に入国していると言うのです。トランプ氏がバイデン氏を移民問題で攻撃する背景には、共和党支持者の移民問題に対する関心の高さがあります。
ロイター通信とグローバル・マーケティング・リサーチ会社イプソスの共同世論調査(21年5月26~27日実施)によれば、「米国が直面している最も重要な問題は何か」という質問に対して、23%の共和党支持者が「経済・失業と雇用」と回答しました。次いで、19%が「移民問題」と答えました。
一方、18%の民主党支持者が「経済・失業と雇用」、15%が「不平等と差別」と答えました。
党派別にみると、政策の優先度に相違があることが分かります。共和・民主両党の支持者は1位に「経済・失業と雇用」を挙げましたが、2位は「移民問題」と「不平等と差別」に分かれました。前回の同調査(同月19~20日実施)においても、この傾向は顕著に表れています。
2022年米中間選挙で共和党を勝たせて勢いに乗り、24年大統領選挙で同党から指名を獲得して、20年大統領選挙の「復讐」をする意欲にあふれたトランプ氏の演説でした。