「中国は賠償金を支払え!」
トランプ前大統領は6月3日、「米国を救え(Save America)」という政治団体を通じて、「中国は米国と世界に自分たちが招いた死と破壊の代償に10兆ドル(約1093兆円)を支払うべきだ!」と、声明を出しました。
米疾病対策センター(CDC)によれば、米国内の新型コロナウイルスによる死者数は、59万4381人に達しました(21年6月6日現在)。また、世界保健機関(WHO)によれば世界の死者数は371万8683人です(同月6日現在)。厚生労働省の発表によると、日本の死者数は1万3574人です(同月7日現在)。言うまでもありませんが、新型コロナウイルスによって世界経済が大打撃を受けました。
演説でもトランプ前大統領は新型コロナウイルスが中国の武漢ウイルス研究所から流出したと主張し、「中国は少なくとも10兆ドルの賠償金を払わなければならない」と語気を強めました。10兆ドルは中国が米国と世界にもたらした「死と破壊」を考えれば、決して高額な請求ではないと言うのです。トランプ氏は「10兆ドル以上だ」と強調しました。
加えて、中国によって債務漬けなっている国々に対する復興の頭金として、「債務帳消し」を強く求めました。このとき、トランプ氏は会場の支持者から拍手喝さいを浴びました。
バイデン氏が中国新疆ウイルグ自治区及び香港における「人権」に焦点を当てているのに対して、トランプ氏は対抗軸として「賠償金」を出してきたのです。中国を巡り「人権」対「賠償金」という新たな対立構図を設定し、中間選挙を戦う狙いがあるのでしょう。中国に対してバイデン氏よりも強硬な姿勢で臨み、支持基盤を超えて、新型コロナウイルスの犠牲者の家族や親戚、
ただ、本来であればトランプ前大統領はツイッターとフェイスブックを活用して、「人権」対「賠償金」のメッセージを支持者に拡散できたはずです。しかし、フェイスブックは2023年1月までトランプ氏のアカウントを凍結しました。ツイッターのアカウントも使用できません。
そこでトランプ前大統領は今後、支持者を集めた大規模集会でメッセージを発信することになります。トランプ氏の中間選挙におけるSNS戦略は明らかに制限を受けます。
調査報告書の行方
バイデン氏は90日間で、新型コロナウイルスの発生源に関する調査報告書をまとめるように米情報機関に指示を出しました。期限は8月下旬です。
仮に米情報機関が、新型コロナウイルスが武漢ウイルス研究所から流出した確固たる証拠を見つけた場合、トランプ氏の「賠償金」のメッセージの強さは、バイデン氏の「人権」を上回る公算が高まります。逆に、情報機関がウイルス流出の「証拠がない」と結論づけた場合、トランプ氏は報告書を「フェイク・ニュース」だと批判して、信頼度を下げるキャンペーンに出るでしょう。いずれにしても、「真実」と「政治」のせめぎ合いになります。
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