2024年11月26日(火)

渡辺将人の「アメリカを読む」

2012年11月5日

 2012年大統領選に向けて常に懸念されてきたのが中東情勢、とりわけイスラエルとイランの緊張であった。「オクトーバー・サプライズ」として両国の間に何らかの有事が発生すれば、大統領選挙への影響は無視できなかった。原油価格の上昇は車社会でガソリン価格に敏感なアメリカの有権者を揺さぶる。オバマ政権の不断の外交努力と共に、選挙陣営レベルでもアメリカ国内の世論やユダヤ系票が、イスラエルの安全保障だけに収斂しないマネージメントが望ましかった。

全国党大会の場で有権者集団間の連携強化

 民主党はシャーロットで開催された全国党大会を最大活用して、ユダヤ系とその他の民主党の支持基盤の一体性を醸成した。民主党全国党大会において、AJC(アメリカユダヤ系委員会)は「ユダヤ系コミュニティの発展は、アメリカや外国の他の信仰やエスニック集団の発展と結びついている」として、「ユダヤ系とヒスパニック系」「ユダヤ系とインド系」など様々な集団との対話集会を開催して、集団間の相互連携を育てた。

 他方、J-Streetとなど「親イスラエル政策」と「和平」を両立させようというリベラル系団体は民主党大会期間中にシャーロットで活発にシンポジウムを開催した。「アメリカのユダヤ系は、何より政治的に進歩派であり、必ずしもイスラエルだけに関心のあるシングル・イシューの有権者ではない」というメッセージを民主党内外に発した。

 同シンポジウムには筆者もオーディエンスとして出席したが、聴衆とパネリストの議論は活発だった。シカゴからオバマの後見人的な政治家のディック・ダービン連邦上院議員などが参加し、イスラエルと周辺諸国の関係を平和的に解決したいオバマ政権の意図と上手にシンクロさせたことは民主党にとって有意義だった。

イスラエル単一争点から
リベラル複数争点への「重心」強調

 最大の効果は2000年代のブッシュ政権における「ネオコン」の台頭を分析する意図もあって生じた「ユダヤロビー」論などが、アメリカの一般のユダヤ系有権者について間接的に与えたミスリーディングな印象の修正である。

ユダヤ系が重視するトップ2項目の争点 拡大画像表示

 例えば、J-Streetのスローガンは「Pro-Israel」「Pro-peace」であり、メンバーの市民もきわめてリベラルでフレンドリーである。表面的に印象論で語られるユダヤ系団体のイメージとは重ならない。実際にはユダヤ系団体もきわめて多様であるし、ユダヤ系有権者のアイデンティティは一義的には国内政治の党派対立の枠内にある。アイデンティティも複雑で必ずしも一枚岩ではない。また、多くのユダヤ系がイラク戦争にも批判的であった。

 右のJ-Streetの調べにあるように、一般のユダヤ系有権者の関心事は経済や医療保険であり、イスラエルやイラク・アフガニスタン戦争はそれぞれ7% 、6%でしかない。マイアミ大学のアイラ・シェスキン教授の調査でも同じような結果が出ており同教授の2008年の調査ではイスラエルはユダヤ系有権者の優先度として、経済、医療保険、ガソリン価格、教育、税などよりも下位で、15項目中8位であったという。


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