2024年4月25日(木)

DXの正体

2021年7月14日

第二創業ユニコーン

 そんな波乱のスタートから18年、会社の業績は回復、数年後の上場を目指すまでに事業規模を拡大させた。目を向けるのは「第二創業ユニコーン」だ。事業を継承することは完了した。今度は、第二の創業を行い、ユニコーン企業になることだ。

 自動車メーカーとそれに連なるディーラーは、「自社ブランドのクルマを売る」が目的だ。しかし、ファーストグループのような整備会社がメインの店で、同じように売ることを目的にしても勝負にならない。わざわざ整備会社でクルマを買うことのメリットとは何か? 

 「世帯のなかでどんなクルマの構成にして、どんな生活がしたいのか? ライフスタイル(仕事、生活、家族構成など)に合ったクルマを選んで提案してあげることです」

 ユーザーのカーライフを聞くこと、それよってニーズに寄り添い、カーライフを提案してもらえることが、整備会社でクルマを買うことのメリットになる。これは、自動車メーカーにはできない発想だ。メーカーは、自社のラインナップの中から選んでもらうという「プロダクトアウト」型の提案しかできないが、ファーストグループのようなマルチベンダーで販売が可能であれば、ユーザーニーズに寄り添った「マーケットイン」型の販売を行うことができる。

「cars」というプラットホーム

 事業規模が拡大していくなかで、人海戦術に頼った顧客サービスでは限界があることがあり、IT活用を開始した。いわば、藤堂さんの「武器」であるITは、当初は使っていなかったのである。昨今のDXブームでも見られるが、「わが社でもDXだ!」と、掛け声倒れに終わっているところが少なくない。IT、それを使ったDXはあくまで手段だ。

 例えば、顧客との接点活動はいまだにダイレクトメールや電話に依存しており、その準備には多くの手間がかかり業務品質は常に不安定だ。DX化はこうしたアナログ作業の自動化により省力化と成約率向上を同時に実現してくれる。

 昨年10月以降、シリーズAとしての出資を受け、地図大手のゼンリンデータコムとも業務提携をした。そして、本格開発に着手してからわずか4ヶ月で、クラウド型経営管理サービス「カーズマネジャー」のリリースにこぎつけた。当初設けた20社の枠はすぐに埋まった。今後は全国規模で展開する自動車整備団体などへの導入も決まっているという。

 どのようなサービスかと言えば、それまで紙が中心で全てアナログだった自動車修理工場の事業情報(見積もり、請求書など)、顧客管理といったデータを全てクラウドに上げることで「見える化」をして、そのデータの中から、AIによって未来予測をすることを可能にした。

 例えば、自動車整備会社ではこれまで、過去のに車検を受けた顧客資料に目を通して、車検の時期が近づいてきた顧客一軒一軒に電話をして、車検を呼び掛けることしかできなかった。そこで、カーズマネジャーを使えば、どの顧客の車検時期が近いのかすぐに総覧できる。しかも、メール、LINE、電話と連絡手段も使い分けられ、コールサービスを利用することもできる。さらにアプローチした結果も「不通」「検討中」「予約」といった形で記録することができる。

 「カーズマネジャー」を導入することで自動車整備会社は集客の自動化が可能となり、ユーザーにとってもアプリで自動車という資産を管理できるようになるというメリットがある。

 「これまでは、事業承継が難しい自動車整備会社などを買収し、私たちが積み重ねてきた経営ノウハウを導入・実践することでその会社を改善してきました。ただ、それだと時間もお金もかかります。そこで我々がプラットフォーマーになって、そのサービスを利用してもらうことによって、個別の企業が自立的に改善できるようにしました」と、藤堂さん。

 各種金融緩和によって融資を受けることで、〝延命措置〟をしてもらえる企業が増えているが自動車整備工場業界も例外ではない。経営の改善を図らず単なる延命措置では問題を先送りにするだけだ。その時間を使って、会社が甦れば、自動車ユーザーのみならず社会や地域全体にとってもプラスになる。

 さらに構想は広がる。カーズマネジャーのAIが車両データからその価値を査定して、値段を提示してくれるのだ。従来は中古車ディーラーが主導していた中古車の価格が、市場価値や需給の状況を踏まえたより精度の高い価格に収れんすることになり、結果として中古車の価値を高めることができる。また、整備工場会社にとっては間接的に中古車の在庫を持つことになり、ビジネスチャンスが拡大する。

 自動車の整備を依頼していた整備工場が売買の拠点になるというまさに画期的なアイデアだと言えるだろう。

 米国のプラットフォーマーや日本の自動車メーカーは、MaaSの頂上をめざし取り組みを開始している。ファーストグループの藤堂さんは、これら巨大資本とは別の道筋から、MaaSの山に挑戦している。自動車整備工場を中心に据え、地域社会、そして人をつなぐモビリティーの価値を突き詰めようとしているところが特徴的で魅力的だ。近い将来、独自なMaaSの世界を創り出すに違いない。その姿を見ることが楽しみだ。ファーストグループのさらなる成長と進化を期待したい。

  
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