2022年12月8日(木)

Wedge REPORT

2021年7月29日

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結城康博 (ゆうき・やすひろ)

淑徳大学総合福祉学部教授

淑徳大学総合福祉学部教授。政治学博士。社会福祉士・介護福祉士・ケアマネジャーの資格を持ち、地域包括支援センターおよび民間居宅介護支援事業所での勤務経験をもつ。専門は介護と医療を中心とした社会保障政策。著書に『介護職がいなくなる: ケアの現場で何が起きているのか』(岩波ブックレット)など多数。

介護の「雇用の調整弁機能」は過去の産物

 一昔前、「介護は雇用の調整弁」といわれた時代があった。一般の労働市場が厳しくなると、介護業界に労働者が移転し、一時、介護業界の厳しい労働事情は改善するといった事象が繰り返される意味だ。

 しかし、09年リーマンショック期を最後に、これら「雇用の調整弁」機能は利かなくなった。10年介護分野の有効求人倍率と全産業の有効求人倍率をみると、介護分野は1.31倍で、現在と比べ深刻な状況ではなかった(図4)。

 それ以降、全産業の有効求人倍率が上昇し、同時に介護分野の倍率も上昇して深刻さが増し、業種を問わず慢性的な人手不足状況が続いている。

 これは、15年団塊世代人口層が65歳を過ぎ生産年齢人口でなくなることで、一挙に労働市場に人手不足の現象が生じたことによる。

 その意味では、現在のコロナ禍とはいえ、「仕事」を選ばなければ直ぐに「職」は見つかる。厚労省データによれば、直近の21年5月の全産業の有効求人倍率は1.09倍で、「コロナ不況」といえども1倍を超えている。これまで不況時に1倍を超えるとことは考えられなかった。少子化による生産年齢人口減少の影響は大きい。

中長期的には人材確保とならない外国人介護職員

 コロナ収束後における外国人介護職員への期待はどうであろうか。コロナが収束すれば、一定の外国人介護職員の来日は期待できるかもしれない。しかし、年間約5万人必要とされる人数に対して、これまでの実績を鑑みて既存の「経済連携協定(EPA)」「技能実習生」「特定技能」「介護専門学校等留学生からの就職」といった全てのルートを活用しても、1万人にも満たないと、筆者は考える。厚労省データによれば、現在、EPAルート約3200人、技能実習生ルート約2万人、特定技能ルート約200人、介護専門学校留学(在留資格介護)ルート約1300人が日本で働いている。つまり、外国人介護士ルートが開始されて数年経つが、すでに帰国した人も含めると総計約2.5万人しか日本で働いていないからだ。

 しかも、40年といった中長期的なスパンで考えた場合でも、就労者数を確保できないだろう。技能実習生や特定技能については、在留期間が限られ、長期的な人手の獲得にはならない。さらに、日本の経済力を考慮して現行よりも来日して就労する人が少なくなることも予測される。なぜなら、多くの外国人介護職員が日本で働く最大の要因は、「出稼ぎ」感覚であり、強い「円」が前提条件だからだ。

 内閣府「選択する未来」委員会『選択する未来-人口推計から見えてくる未来像-』(15年124~125頁)によれば、「世界のGDPに占める日本の割合の推移をみると、1980年に9.8%だったものが、95年には17.6%まで高まった後、2010年には8.5%になり、ほぼ30年前の位置付けに戻っている。現在のまま推移した場合には、国際機関の予測によれば、20年には5.3%、40年には3.8%、60年には3.2%まで低下する」とあるように、今後は、日本の経済力は下降していく可能性が高い。その意味では、外国人介護職員への大きな期待は難しいといえる。

 日本側としても技能実習生や特定技能ルートで外国人介護士が来日しても、期限が限られ長期的な人材確保の目処がたちにくい。慣れて介護の仕事に精通したと思えば、最長5年で帰国してしまう制度は、せっかく養成していても無駄になってしまう。

産業構造と労働分配政策が急務

 「介護」の仕事は、「人」でなければ困難な業種である。一人ひとりに要望を聞いて、食事介助、排泄介助、入浴介助など行う「ケア」は、ロボットや機器では対応できないことは明らかだ。特に、認知症高齢者への対応は専門性が必要とされ、専門的な技術を備えた「人」でなけければ難しい。

 確かに、一部、「介護ロボット」「介護機器」などのICT活用などの進歩によって、10人でやるべき仕事を9人でこなせる時代は来るであろう。しかし、その効果は他産業と比べて、限りなく低い業界であるのが「介護」である。むしろ、コンビニ、レストラン、ホテルなどのサービス産業において「無人(ロボット)店舗」のような、現在「人」でこなしている産業を、できるだけ「機器」を開発させて対応するほうがはるかに効率的であろう。

 そして、限られた労働人口を「人」でなければこなせない、医療や介護分野に労働移転させていくべきである。限られた労働人口を適切に配分して、「機器」開発を含めた産業政策と、労働分配の政策なくして中長期的な2040年を見据えた介護人材不足対策はありえない。

 医療・介護の分野に人材が配分される仕組みができなければ、介護分野における需給バランスが崩れ、供給不足が深刻化する。要介護者もしくは認知症患者は、現在の介護事業者を選ぶ存在から、限られた介護事業者から選ばれる存在になってしまう。「介護難民」が社会にあふれることとなる。

 毎月、介護保険料は徴収されるが、実際、サービスがなければ「介護」は受けられない。いわば「保険あって介護なし」といった時代に、向かいつつある。そのためにも、早急に是正策を考える必要がある。

 具体的な解決策としては、単純なことであるが介護分野に多くの公費を投入して、介護職員の給与水準を引き上げる政策が急務である。全産業の平均年収よりも介護職員の給与が低いことは、誰が考えても改善する兆しは期待できない。まずは、繰り返し言われていることだが、給与水準を引き上ない以上、何ら施策を講じても効果は薄いであろう。ただ、単に「お涙ちょうだい」で給与水準を引き上げてもらうだけでは、その政策効果は薄くなる。介護職員が一部の医療分野の知識や技術を身につけるなど、その専門性を高めるといった介護の地位の向上も必要になるだろう。

Wedge5月号では、以下の特集を組んでいます。特集はWedge Online Premiumで購入することができます。
■昭和を引きずる社会保障 崩壊防ぐ復活の処方箋
PART 1  介護         介護職員が足りない!  今こそ必要な「発想の転換」
PART 2  人口減少   新型コロナが加速させた人口減少 〝成長神話〟をリセットせよ    
PART 3  医療        「医療」から「介護」への転換期 〝高コスト体質〟からの脱却を     
PART 4  少子化対策 「男性を家庭に返す」  これが日本の少子化対策の第一歩
PART 5  歴史        「人口減少悲観論」を乗り越え希望を持てる社会を描け       
PART 6  制度改革    分水嶺に立つ社会保障制度  こうすれば甦る
Column 高齢者活躍 お金だけが支えじゃない  高齢者はもっと活躍できる
PART 7  国民理解    「国家 対 国民」の対立意識やめ真の社会保障を実現しよう

  
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