新型コロナウイルスによる緊急事態宣言は解除されたが、医療や高齢者の生活を支える介護事業者の苦しい環境は変わらない。介護問題を専門とする淑徳大学総合福祉学部の結城康博教授は「この20年間の介護政策のツケがまわり、顕在化した」と指摘する。介護業界に続く問題と、コロナで露呈された現状をインタビューした。
感染症が拡大を進めるにつれて、介護施設でのクラスター発生やその懸念によって、デイサービスを中心に介護サービスの休止が相次いでいる。国は、代替手段として訪問介護を推奨しているものの、訪問介護は平時であっても人手不足が顕著で、新たな利用者を受け入れることができない状況が続いているという。
「訪問介護者(ヘルパー)の雇用形態のほとんどがアルバイト。感染症が怖ければ休みを取るし、一斉休校で子どもが家にいることになれば長期で出勤しなくなる。給料が安いことによって介護サービスが非効率化し、不安定化してしまう」と結城氏は指摘する。介護の人手不足には安価な給料が理由とされるが、そこには20年ほど続く介護報酬制度にあるという。
「介護には、食事の介助や入浴、体位変換といった身体介護と、買い物や薬の受け取り、掃除といった生活援助の2種類がある。国は生活援助を介護とはみなさず、家族や家政婦がやるものとし、介護報酬が少なくしている。そのため、ヘルパーは身体介護に対する報酬のみに近い形で、ボランティアのように生活援助もしていることが多い。事業者へ出される報酬は安いにも関わらず、生活援助という労力がかかり、事業効率が悪くなってしまっている。事業者はヘルパーへの給料を安くせざるを得なくなっている」と現状を解説する。
限られた介護報酬の中でのやりくりを強いられている介護事業者が何とか運営を続けていくために賃金の安いパートやアルバイトで介護職員を雇用する。正社員という安定した立場でない上、もらえる給料が安いことから、なり手が少なくなっている。人手不足の悪循環が続いている。2020年3月時点の有効求人倍率(常用(含パート))では、介護サービスが4.1倍と、全体の1.3倍を大きく上回る。新型コロナが流行する前の19年12月も介護サービスが4.8倍、全体が1.53倍だったため、新型コロナの影響といった一時的なものではなく、慢性的な人手不足が続いていることがわかる。
「在宅医療において、診療や治療を施す医療と生活を支える介護は車の両輪のはずなのに、医療にばかり光が当たってしまい、介護のタイヤはパンク寸前になっている」と結城氏は指摘する。こうした長年続いた歪みが新型コロナという非常事態によって露出した形となっているのだ。