介護士不足なのであれば、介護保険料を値上げして介護士の待遇を改善するしかないので、国民は負担増を覚悟すべきだ、と久留米大学商学部教授の塚崎公義は説きます。
労働力不足は賃金が均衡賃金を下回った結果
介護士不足が深刻なようです。単に給料の低さのみならず、仕事のキツさ等も関係している模様ですが、筆者は介護の業界には詳しくありませんので、本稿では単純に「キツい仕事に見合った賃金を払うべきだ」という賃金の問題として考えることにします。
一般論として労働力不足というのは賃金が適正な水準より低い場合に起こります。適正な水準というのは、需要(求人数)と供給(求職数)が一致するような水準のことで、これを均衡賃金と呼びます。
一般の産業が労働力不足である主因は、その産業の経営者が正しく均衡賃金を認識していないことでしょうから、経営者が判断の誤りに気付いて高い時給で求人を出し直せば良いのでしょう。
しかし、介護の場合は、介護施設の収入が決まっているので、経営者が事態を改善するのは困難です。広く国民が介護保険料を支払い、それが介護施設に配分され、その中から介護士の給料が払われるからです。
やりがい搾取を許すべからず
介護士が不足している理由が介護士の給料が安すぎることならば、給料を上げる必要があるでしょう。一つには、介護士が足りないために必要な介護を受けられない人のためですが、今ひとつには介護士を「やりがい搾取」しないためです。
介護士の給料が安すぎるのに、そこで働いている人がいるのはなぜでしょうか。一部には「自分たちの待遇が他の産業より悪いので、転職すれば待遇が改善することを知らない情報弱者」もいるでしょうが、大多数は「人のためになる仕事でやりがいがあるから、待遇が悪くても続けている」という人でしょう。
現在は、介護士たちのそうした善意に便乗して、均衡賃金より安い賃金で介護士に働いてもらっているわけですが、これは「やりがい搾取」と言われても仕方ありません。
では、搾取しているケシカラン人は誰でしょうか。直接的には介護施設の経営者かもしれませんが、上記のように彼等には賃金を上げる選択肢がないのです。
そうであれば、介護施設に少ししか予算を配分していない政府でしょうか。その通りですが、政府としても介護保険料等の範囲内でしか予算を配分できないのです。政府だって打ち出の小槌を持っているわけではありませんから。
政府がやりがい搾取をやめようと思えば、介護保険料を値上げするか、増税して税金から介護施設に補助金を出すか、いずれかが必要になるのです。そうなれば、我々一般国民の負担が増えるわけです。
「そうした負担増は嫌だ」と感じる読者は多いと思いますが、そう考えて介護保険料の値上げ等に反対するということは、政府に向かって「やりがい搾取を続けろ」と言うようなものです。
それは公正や正義という観点から、問題でしょう。自分たちが介護保険料を払いたくないから介護士たちをやりがい搾取しつづけよう、というわけですから。それがダメなら、介護保険料の値上げを容認するしかありません。