財務省が省内にチームを作り、なぜ日本経済が長期停滞に陥り「失われた20年」と呼ばれる事態に直面しているのかを分析した。結論は世界経済のグローバル化に日本企業が適応できなかったからだ、というものだった。そして、00年以降、企業の設備投資が減価償却の範囲内に留まり、余剰資金が積み上がっている点に着目している。つまり、企業の手元に溜まった資金が、新規投資などに向いていないことが、日本が成長しない一因だと考えたわけだ。
財務省が成長戦略に本腰を入れる理由
ちなみに財務省が「日本がなぜ成長しないか」を分析し始めたのには訳がある。社会保障・税一体改革関連法案の成立で、消費税率を14年4月に現行の5%から8%に、15年10月には10%に引き上げることが決まった。だが、経済環境が急変した場合には増税を見合わせる「景気条項」が付いている。財務省の悲願である消費増税には、景気を上向き基調にもっていくことが不可欠なのだ。これまで政府の「新成長戦略」などの策定は経済産業省に任せきりだったが、財務省としても本腰を入れる必要に迫られた、という訳だ。
増税が実施できたとしても経済成長は不可欠だ。15年10月に税率が10%になっても、増える税収は13.5兆円と試算されている。しかも増税によって景気が悪化し消費が落ち込めば、税収は減る。前回消費税を3%から5%に引き上げた後は、全体の税収は減ってしまった。税率を引き上げても税収が減ったのでは何にもならない。
増え続ける社会保障費も増税では賄えない。12年度の一般会計予算で国債の元利払いなどを除いた歳出額は68兆円余り。対する税収などは46兆円に過ぎない。13.5兆円と見込まれる消費増税ではプライマリー・バランス(基礎的財政収支)を黒字にすることはできない。つまり毎年の赤字垂れ流しが続くことになる。財政再建には経済の成長が必要なのだ。
投資をせずに溜め込んだ日本企業の内部留保の増加ぶりは顕著だ。資本金10億円以上の企業が保有する10年度末の内部留保(連結ベース)は266兆円と1年前に比べて9兆円も増加した。00年代前半は株式を買い集めた投資ファンドなどが日本企業に圧力をかけ、配当の増額などを迫った。手元に資金を溜め込んだ企業が狙われ、配当を増やすか、ROEを高めることが求められた。その後、買収防衛策などが広まり、投資ファンドが衰退すると、日本企業の内部留保は急速に増加した。
内部留保がすべて現金や国債で運用されているわけではなく、設備などに回っているケースもあるが、上場企業だけでも60兆円にのぼる「現金預金」を持つ。株主から預かった資本を銀行預金や国債での運用に回していれば、ROEが低くなるのは当然である。企業経営者がリスクを取って事業に挑むことを怠っていると言うこともできる。つまり、「ファイティング・ポーズ」をとっていないのだ。