21世紀の安全保障論

2021年9月14日

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小谷哲男 (こたに・てつお)

明海大学外国語学部教授

日本国際問題研究所主任研究員を兼任。専門は日本の外交・安全保障、日米同盟、インド太平洋の国際関係。主な共著に『アジアの国際関係―移行期の地域秩序』(春風社)など。
 

 最終的に、バイデン政権は米国市民およびアフガン人あわせて12万人を国外に退避させたが、撤退を妨害しようとするイスラム国の自爆テロによって、13人の米兵を含む犠牲者も出た。バイデン大統領自身は撤退作戦を「まれに見る成功」と自画自賛し、他国を再建するために軍事力を使う時代は終わったことを宣言した。

 しかし、撤退の準備が不十分であったことは明らかであり、共和党だけでなく民主党内からも政権の不手際に対する批判が高まっている。政権内でも、責任のなすりつけ合いが行われている。

 軍が国務省の退避準備が遅れたことを批判する一方、国務省は情報機関の見通しの甘さを指摘しているが、情報機関はカブールの早期陥落も警告していたと反論する。そして、批判の矛先はホワイトハウス、特に調整役であるサリバン国家安全保障担当補佐官にも向けられている。

イエスマンだらけの国家安全保障チーム

 撤退の準備が不十分だったのは、バイデン政権の意思決定過程に問題がある。バイデン政権の国家安全保障チームは、「ベスト・アンド・ブライテスト」がそろっているが、「チーム・オブ・ライバルズ」とはいえない。バイデンは、長年の側近や考え方の近い人物を重宝しており、とりわけバイデンとサリバン、そしてブリンケン国務長官は三位一体といわれるほど結束が強い。

 また「外交のプロ」という自信からバイデンは対外政策に関して異論を聞き入れず、サリバンも国家安全保障会議で大統領が受け入れそうにないことは議題に挙げないという。4月にアフガン撤退が決まった後、これに反するように情報や意見は事実上封じ込められてしまったのである。

 今回の撤退に関して誰も抗議辞任しなかったことも、バイデン政権の特徴であろう。たとえば、トランプ政権では、クルド人の見殺しにつながるシリアからの米軍撤退に反対してマティス国防長官が辞任した。しかし、かつてイラクからの米軍撤退を指揮した経験を買われて入閣したオースティン国防長官は、軍が小規模な駐留の継続を求めているにもかかわらず、大統領の方針に正面から反対することはなかった。以上のように、バイデンがいわば裸の王様となっていたことが、惨めな撤退につながったのである。

アフガン撤退はアジア重視につながるのか

 米国は「アメリカの最も長い戦争」に2兆ドルを費やし、最大10万人の兵士が駐留する中で2300人を失った。しかし、アフガン戦争とそれに続く国家再建には、日本も含めた同盟国、そして国際社会も深く関与してきた。アフガン戦争は決してアメリカの戦争ではなかったのである。想定より早くカブールがタリバンの手に落ちる中、バイデン政権は同盟国の存在を忘れたかのようであったが、アフガン戦争の終結は、それに関わってきたすべての国や地域にも大きな影響を与えることになる。

 バイデンはアフガン戦争という過去の問題を片づけ、中国との競争という将来の課題に向き合うとしている。後編(2021年9月21日)は、バイデン政権のアフガン撤退が及ぼすグローバルな影響、特にアジアおよびインド太平洋地域への含意について考察したい。

  
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