21世紀の安全保障論

2021年10月28日

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辰巳由紀 (たつみ・ゆき)

スティムソン・センター日本部長

キヤノングローバル戦略研究所主任研究員。東京生まれ。国際基督教大学卒業後、ジョンズ・ホプキンス高等国際問題研究大学院で修士号取得。在米日本大使館専門調査員、戦略国際問題研究所(CSIS)研究員などを経て2008年より現職。2012年よりキヤノングローバル戦略研究所主任研究員を兼任。専門は日本の防衛政策、日本の国内政治、日米安全保障関係、米国の対アジア安全保障政策。

コロナ禍で暗礁に乗り上げている経済対策

 アフガニスタンからの米軍撤退そのものは、世論調査でも支持する声の方が強いものの、バイデン政権の対応については国民の大多数が批判的な目を向けている。バイデン政権にとっては大きな痛手となったことは間違いない。

 また、国内で新型コロナウイルス感染が収束する気配を見せないこともバイデン政権の足かせとなっている。今年の春には、コロナウイルスワクチンの接種が進むにつれて市民生活も少しずつ「コロナ後」を見据えたものになっていたが、夏にはより感染力の強いデルタ変異株が主にワクチン未接種人口の間で急速に広がった。このため、一旦は規制されたマスク着用義務などが再び各州で導入され始めた。

 そんな中、バイデン政権が政権発足当初から、「コロナ後」の米国経済の将来を見据え、「米国をより良く再建する(ビルド・バック・ベター、build back better)」という看板の下、成立を目指していた2つの大型経済対策法案の妥結をめぐる交渉も暗礁に乗り上げてしまった。

 2つの大型経済対策法案のうちの1つは全米の道路や橋の補修、鉄道網をはじめとする公共交通網への投資、全米各地へのインターネット網の整備、電気自動車の導入を推進するための設備投資などが含まれる「2021年インフラ投資法案」で、政府からの支出は総額10兆ドルを見込んでいる。

 もう一つは「ビルド・バック・ベター法案」と呼ばれる中産階級以下の所得層や高齢者への広範な支援を網羅した経済支援法案。この法案にはコミュニティ・カレッジ2年間の無償化や公立学校におけるプリスクール教育の提供から、家族の介護や治療のための有給休暇の拡充など、さまざまなプログラムに対する財政支出が含まれており、支出規模は今後10年間で総額35兆ドルの見込みとなっている。

法案成立へ向けた与野党、与党内でのつばぜり合い

 上記2法案のうちインフラ投資法案はすでに大統領による署名を得れば法律となるところまで来ているが、「ビルド・バック・ベター」法案における支出総額の規模(35兆ドル)に共和党側は猛反発。民主党が多数を占める下院ではなんとか9月27日に審議入りしたものの、上院との両院総会で法案の内容と支出総額の規模をめぐる交渉が妥結する気配を見せないまま、今に至っている。

 また、民主党内でも、すでに上下両院で可決されているインフラ投資法案だけ先行させ、立法化すべきだという立場の中道派の議員と、「ビルド・バック・ベター」法案とのセットで可決することを強硬に主張する左派の間で意見が激しく対立。共和党からの賛同を得る以前に、民主党内の仲間割れにより、法案成立のための落としどころは、まだ見えてこない。現在、「ビルド・バック・ベター」法案の支出額を当初の35兆ドルから17.5兆ドルにほぼ半減する妥協案が浮上しているが、この案で民主党内で合意が形成できるかどうか、ハロウィン(10月31日)にかけて、交渉が大詰めを迎えると言われている。

 加えて、9月後半以降は、こうした与野党対立による議会運営の停滞により、連邦政府閉鎖と債務上限引き上げの2つが急浮上。一時は連邦政府閉鎖や米国建国以来初のデフォルト、といった最悪の事態が懸念された。

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