2023年12月3日(日)

補講 北朝鮮入門

2021年10月7日

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礒﨑敦仁 (いそざき・あつひと)

慶應義塾大学教授

1975年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部中退。在学中、上海師範大学で中国語を学ぶ。慶應義塾大学大学院修士課程修了後、ソウル大学大学院博士課程に留学。在中国日本国大使館専門調査員、外務省専門分析員、警察大学校専門講師、東京大学非常勤講師、ジョージワシントン大学客員研究員、ウッドロウ・ウィルソンセンター客員研究員を歴任。慶應義塾大学専任講師を経て、現職。共編に『北朝鮮と人間の安全保障』(慶應義塾大学出版会、2009年)など。

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澤田克己 (さわだ・かつみ)

毎日新聞記者、元ソウル支局長

1967年埼玉県生まれ。慶応義塾大法学部卒、91年毎日新聞入社。99~04年ソウル、05~09年ジュネーブに勤務し、11~15年ソウル支局。15~18年論説委員(朝鮮半島担当)。18年4月から外信部長。著書に『「脱日」する韓国』(06年、ユビキタスタジオ)、『韓国「反日」の真相』(15年、文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)、『韓国新大統領 文在寅とは何者か』(17年、祥伝社)、『新版 北朝鮮入門』(17年、東洋経済新報社、礒﨑敦仁慶応義塾大准教授との共著)など。訳書に『天国の国境を越える』(13年、東洋経済新報社)。

 新型ミサイル開発に再び拍車をかけている北朝鮮が、韓国に対しては柔軟な姿勢をアピールしている。残り任期が7カ月しかない文在寅大統領の足元を見て、取り込みを図ろうというのだろう。場合によっては「金正恩訪韓」などのカードをちらつかせて、揺さぶりを強めるかもしれない。一方で新型コロナウイルス対策の国境封鎖による苦境の中でも、「普通の国」志向の金正恩国務委員長らしさが垣間見える場面がある。9月28、29日に開かれた最高人民会議(国会)を通して見えてきた北朝鮮の戦略を考えてみたい。

韓国・ソウル駅で流れた金正恩が韓国との融和の意思を表明するニュース映像(AP/アフロ)

米韓へのメッセージとなった施政演説

 金正恩は代議員ではないが、2日目の会議に出席して「社会主義建設の新たな発展のための当面の闘争方向について」と題する「施政演説」を行った。金正恩の施政演説は2019年4月の最高人民会議に続く2回目だが、いま施政演説をしなければならない国内的事情はうかがえない。

 注目される軍事分野については踏み込んだ言及があった可能性が高いものの、公表された要約にある内容は今年1月の第8回党大会での演説の焼き直しだった。そうであれば、この時期に演説したのは、米韓両国に対するメッセージを明確にするためだったのだろう。

 目についたのは、韓国への揺さぶりだ。硬軟織り交ぜた揺さぶりで相手に譲歩を迫るのは北朝鮮の常とう手段である。

 金正恩は、米韓合同軍事演習を非難して「南朝鮮(韓国)当局が引き続き米国に追随」していると不満を表明。文在寅が9月の国連総会演説で提案した終戦宣言については、宣言より先に「相手に対する尊重が保障され、他方に対する偏見的な視角と不公正な二重的態度(ダブルスタンダード)、敵視観点と政策」を撤回しろと主張した。

 そして、南北関係が「和解と協力の道へ進むか、そうでなければ対決の悪循環の中で引き続き分裂の苦痛をなめるかという深刻な選択の別れ道に置かれている」と述べるとともに、文在寅に対して「言葉ではなく実践で民族自主の立場を堅持し、根本的な問題から解決しようとする姿勢」を要求した。

 金正恩の妹である金与正・党宣伝扇動部副部長が会議前に出していた談話でも、終戦宣言を肯定的に評価したり、南北首脳会談の開催に言及したりしながら、そのためには韓国の「正しい選択」が必要になると強調していた。金正恩の演説ではさらに、10月初めから南北連絡通信線を再び復元する意思が一方的に表明された。


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