韓国の「読み方」

2021年7月27日

»著者プロフィール
著者
閉じる

澤田克己 (さわだ・かつみ)

毎日新聞記者、元ソウル支局長

1967年埼玉県生まれ。慶応義塾大法学部卒、91年毎日新聞入社。99~04年ソウル、05~09年ジュネーブに勤務し、11~15年ソウル支局。15~18年論説委員(朝鮮半島担当)。18年4月から外信部長。著書に『「脱日」する韓国』(06年、ユビキタスタジオ)、『韓国「反日」の真相』(15年、文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)、『韓国新大統領 文在寅とは何者か』(17年、祥伝社)、『新版 北朝鮮入門』(17年、東洋経済新報社、礒﨑敦仁慶応義塾大准教授との共著)など。訳書に『天国の国境を越える』(13年、東洋経済新報社)。

(sefa ozel/gettyimages)

 文在寅大統領の後任を選ぶ来年3月の韓国大統領選へ向けた動きが本格化している。ただし、与野党の候補が確定して選挙構図が固まるのは早くて11月。現政権を毛嫌いする人の中には「政権への不満はかつてなく高まっている。政権交代は確実だ」と言う人もいるが、実際には大統領支持率は歴代最高を維持したままだ。保守派野党勢力が期待を寄せる尹錫悦(ユン・ソクヨル)前検事総長は失速気味だし、与党側では勢いを失っていた知日派の李洛淵(イ・ナギョン)元首相が再び浮上するなど激しい地殻変動が起きている。現時点での情勢を整理してみたい。

中道層を取り込み、李洛淵氏が再浮上

 与党・共に民主党は現在、6人の候補が予備選を戦っている。当初は9月に候補を決める予定だったが、新型コロナウイルスの感染再拡大を受けて10月に先延ばしした。保守派の最大野党・国民の力は11月に候補決定の見込みだ。ただ野党候補が乱立すれば共倒れになるので、その後に他陣営との候補一本化を進めることになるかもしれない。

 与党では、ポピュリスト的な過激発言で「韓国のトランプ」とも言われる李在明(イ・ジェミョン)京畿道知事の独走態勢に異変が起きている。李知事は今年に入って他候補を突き放していたが、予備選が公式に始まってから李洛淵元首相が急速に追い上げてきた。

 韓国の調査会社・リアルメーターの「次の大統領にふさわしい候補」調査では、李在明知事が20%台半ば、李洛淵元首相が10%前後でダブルスコアという状態が今年に入って定着していた。これが7月19日発表分では李在明知事23・8%、李洛淵元首相20・1%となった。ちなみに野党側では尹錫悦前総長が22%でトップである。

 韓国では現時点で投票するならという意向を聞く「仮想対決」という調査が頻繁に行われる。野党側を尹錫悦前総長と見立てた同日発表調査では、与党側が李在明知事なら尹41%対李43%、李洛淵元首相なら尹42・3%対李41・2%だった。李洛淵元首相でも十分に戦えるという数字である。

 李洛淵元首相への支持は、与党支持の進歩派だけでなく、中道層で大きく伸びている。後述するように尹錫悦前総長が失速したことで、中道層が穏健派イメージの強い李洛淵元首相に流れたようだ。危機感を強めた李在明知事側は、なりふり構わぬ李洛淵たたきに走る構えを見せている。

 なお文在寅大統領の支持率は底固い。韓国ギャラップ社が23日に発表した世論調査での支持率は40%、不支持率は51%だった。任期最後の5年目としては異例の高さだ。歴代大統領が5年目の第1四半期(1~3カ月目)に記録した支持率は、最高だった金大中氏が33%。その他は李明博氏25%、盧武鉉氏16%、金泳三氏14%だった(朴槿恵氏は5年目に入った直後に弾劾された)。

 大統領選は「次の5年間」を担うリーダーを選ぶ選挙なので現政権への評価が結果に直結するわけではないが、政権への怒りが大多数の国民に共有されているわけでもないということだ。

政治経験ゼロの前検事総長に向けられる懸念

 野党側は、現時点で話題になるのが政治経験ゼロの人たちばかりという前例のない状況だ。4年前の朴槿恵弾劾で壊滅的打撃を被った保守政界に、衆目の一致する大統領候補がいないという事情が大きい。

 非政治家で名前の挙がる筆頭は、尹錫悦前検事総長だ。2年前、大統領側近だった曺国(チョ・グク)元法相のスキャンダルを徹底的に追及して政権と対立したことで、保守派から英雄視されるようになった。

 ただ6月末に記者会見を開いて政治活動を始めると宣言して以降、世論に失望感が広がっている。記者会見では文在寅政権を激しく攻撃したものの、自らの政権ビジョンを語ることはなく、落ち着かない様子で左右に首を振りながら話す姿がやゆされた。約1時間の会見で、首振りは740回に達したのだという。

 会見後に公開の場での活動を活発化させると、失言が目立ち始める。経済紙のインタビューでは、労働時間規制を厳格化した文在寅政権を批判しながら「週に120時間でもがむしゃらに働いて、後でまとめて休めるようにすべきだ」と発言した。規制が厳しすぎるという経済界の不満を意識したのかもしれないが、週120時間は1日17時間労働を7日間続ける計算だ。長時間労働による過労死が社会問題となっているだけに、現実を無視した暴言だと激しい批判を浴びた。

 広報戦略が稚拙だと批判されるなど、スタッフの力量不足も指摘される。圧倒的な国民的支持を見せつけた上で最大野党・国民の党に入党し、予備選で楽勝というシナリオに暗雲が漂い始めた。

 妻と義母に関係するスキャンダルも懸念材料だ。詐欺罪などで起訴されていた義母は記者会見3日後に懲役3年の実刑判決を受け、他にも不動産投資に絡む私文書偽造の罪でも公判中。妻にも株価操作疑惑などがある。さらに進歩派のハンギョレ新聞などが、本人の疑惑追及にも力を入れ出した。

 政界関係者からは「劣勢になったら放り出すのではないか」という声が出ている。

関連記事

新着記事

»もっと見る