2024年4月27日(土)

補講 北朝鮮入門

2021年10月7日

 経済政策については、経済制裁が続くことを前提にした「自力更生」の意思が改めて示された。

 金正恩は施政演説で、「全ての貿易活動が経済部門の輸入依存性を減らし、自立性を強化する方向で拡大、発展する」ことを指示した。これまでも輸入に頼るなと「輸入病」を戒めてはきたが、現在は新型コロナ対策として中国との貿易も事実上遮断された状態にある。それにもかかわらず「輸入依存性」に警鐘を鳴らしたのは、今後も自力更生を経済建設の柱にしていくという強い姿勢の表れだ。

 演説では、「8月3日一般消費財」への言及が復活した。金日成時代の1984年8月3日に、廃棄物を利用して生活必需品を生産しようという運動が提起されたことを指す。今回の会議2日目に「再資源化法」が議題とされたことと合わせて考えれば、自力更生のためにリサイクル推進が必須だという事情をうかがうことができる。苦しい台所事情を示すとも言えるが、北朝鮮側から見れば自力更生への強い意気込みということになるのかもしれない。

金与正を抜擢した意図とは

 人事では、北朝鮮の「最高政策指導機関」である国務委員会メンバーが大幅に入れ替わった。金正恩が務める国務委員長の英語表記はPresidentで、米国の大統領や中国の国家主席と同列とされる。第1副委員長と副委員長が1人ずつ、各分野での実務責任者となる国務委員は今回の人事で1人減って10人となった。ちなみに韓国でも、閣議のことを国務会議、閣議に出席する閣僚らを国務委員と呼んでいる。

 今回の国務委員人事は、これまでの党人事を追認するものが多かった。唯一のサプライズは、1月に党中央委員会政治局メンバーから外れていた金与正が抜擢されたことだ。金正恩の妹という特殊な人物であり、金正恩体制では他の高官もひんぱんに降格と昇格を繰り返しているのだが、金与正の存在感はさらに高まるのかもしれない。

 国務委員は1人減ったのに、外交・対南担当は4人体制が維持されたと言える。これまでのメンバーは、対南担当である党統一戦線部の金英哲部長と外交トップの金衡準・前党国際部長、李善権外相、崔善姫・第一外務次官だった。このうち金衡準と崔善姫が抜けたものの、金与正とともに金成男・党国際部長の2人が加わったからだ。金与正は、トランプとの米朝首脳会談に際して実務を担当した崔善姫の代わりに就任したと考えられる。

 金与正は昨年3月以降、韓国や米国を非難するメッセージを発信するなど、米韓に対して外交的意思を示す役割を担ってきた。2018年の平昌冬季五輪に合わせて訪問した韓国社会での認知度はきわめて高い。今回の抜擢は、北朝鮮が対南関係を本気で動かそうとしていると文在寅政権に期待させる効果をもたらすことにもなる。

   
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