2024年4月27日(土)

補講 北朝鮮入門

2021年10月7日

新型ミサイルで圧迫しながら、融和策を一方的に表明

 ボールはあくまで韓国側にあると投げかけ、北朝鮮問題で成果を上げて政治的レガシー(遺産)にしたいという文在寅を圧迫している。終戦宣言という餌をぶら下げて韓国抱き込みを図ろうというもので、韓国側が柔軟な姿勢を見せるのなら、18年9月の首脳会談で約束した金正恩の訪韓など他のカードも切ってくるだろう。訪韓が実現すれば、首脳会談に中身がなくても韓国内の融和ムードを高めることはできる。来年3月の韓国大統領選で、融和路線を引き継ぐ候補に有利な環境を作れるという計算もありそうだ。

 北朝鮮は9月になってから、長距離巡航ミサイル(11、12日)、鉄道機動ミサイル(15日)、極超音速ミサイル「火星8型」(28日)、新開発の対空ミサイル(30日)を立て続けに発射した。1月の党大会で金正恩はミサイル開発の大号令を掛けており、それが実行に移された形である。軍事力強化を着実に進展させ、それをテコにどこかのタイミングで米国との交渉に持ち込みたい思惑であろうが、現段階でバイデン米大統領はトランプ前大統領ほど北朝鮮問題に熱心ではない。

 金正恩も米国の現状を理解し、すぐに米国との対話が始まるという期待はしていないようだ。バイデン政権が北朝鮮に対する「外交的関与」と「前提条件のない対話」を主張していることについて、「自分らの敵対行為を覆い隠すためのベールにすぎず、歴代の米政権が追求してきた敵視政策の延長にすぎない」と切り捨てた。

 金正恩の狙いは結局、まずは文在寅を抱き込んで米国と距離を置かせる、もしくは北朝鮮に歩み寄るべきだと米国を説得するよう仕向けるということになるのだろう。

投票や開かれた会議を〝演出〟

 今回の最高人民会議は、第14期第5回会議と呼ばれる。建国以来14回目の選挙で選ばれた代議員による5回目の会議という意味だ。金正恩が初めて施政演説をした19年4月の会議が、現在の代議員によって初めて開かれた第14期第1回会議だった。自由な投票は事実上できない仕組みになっているものの、北朝鮮でも選挙という最低限の形式は演出されるのである。

 こうした演出を従来以上に重視するのが金正恩のスタイルだ。スイス留学の経験があるからか、「普通の国」としてのプロセスを見せたがる傾向がある。

 今回の会議でも脱「シャンシャン会議」を目指す姿勢が目についた。法律の採択にあたって、従来通りの官製討論だけでなく、「研究・協議会」と称する別室での分科会まで開催された。1月の党大会でも「部門別協議会」が開催されており、実務を担う幹部に責任感を持たせる意味合いもあろう。これは、金日成時代の会議開催方式を復活させたものでもある。

 また、かつては会議の開催が公表されないことも珍しくなかったが、近年は金正恩が出席する主要な会議の開催はすべて公表しているようだ。それまで単に「党政治局会議」を開催したと報じられてきたものが、昨年6月から「第7期第13回政治局会議」などとナンバリングされるようになったのである。詳細な中身が出てくるわけではないが、金正恩の方針なのだろう。

リサイクルの強化も経済制裁に耐える「自力更生」策

 今回の会議では1日目に、「市、郡発展法」と「青年教養保障法」の採択、「人民経済計画法」の改正が行われたほか、「再資源化法」の執行状況が報告、討議された。2日目には、国営航空会社「高麗航空」を運営する高麗航空総局を国家航空総局に改称することを決定したほか、金与正を国務委員に選出するなどの「組織問題」(人事)が発表された。


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