2024年4月26日(金)

スポーツ名著から読む現代史

2021年11月19日

 65年から始まった巨人の「V9」は、テレビ局の巨人戦への依存度を高める結果をもたらした。巨人が勝てなくなると、従来の考え方を改めなくてはならなくなる。その先陣を切ったのがフジテレビだった。それまでの夜のテレビニュースは、政治、経済や事件事故などがメインメニューで、スポーツニュースは、番組の終わりに付け足し的に扱われるのが常だった。プロ野球でいえば、どこが勝った、どこが負けた、の勝敗と、せいぜい誰が何本の本塁打を打ったなど、結果を伝えるだけ。

 その点、76年に始まった「プロ野球ニュース」は、一つひとつの試合のダイジェストを伝え、娯楽性を持ったニュース番組として視聴者を集めた。「スポーツニュース」ではなく、「プロ野球ニュース」とした点にも当時の時代背景や、フジテレビのメッセージ性が込められているように思える。取り上げられる対戦カードは、セ・パ両リーグの試合がほぼ同等に扱われ、プロ野球全体の人気拡大に貢献した。

今年はいかなる「作品」が生まれるのか

 前述したとおり、この作品は「Sports Graphiⅽ Number」 の創刊号に掲載された。同誌は迫力ある写真と魅力的な文章により、スポーツをより広く、より深く多彩に伝えることでエンターテインメントとしてのスポーツの魅力を日本中に広めた功績がある。

 産業レベルで考えたとき、スポーツあるいはプロ野球という素材を生のまま楽しむだけでなく、2次加工、3次加工したスポーツの「6次産業化」がこの時期から本格的に始まったとも考えられる。

 メディアが「巨人一辺倒」だった時代なら、広島と近鉄が日本一を争った日本シリーズの一場面を切り取った『江夏の21球』が、これほど多くの人々に注目されただろうか。山際という若く、才能あふれた作家に、スポーツを題材にしたノンフィクション作品を発表する場が用意されていたことの幸運を思わざるを得ない。

 『江夏の21球』という傑作は、こうした時代背景のもとで生まれた。

 プロ野球史上初の前年最下位同士の対決となった日本シリーズ。いかなる試合が繰り広げられ、どんな2次加工、3次加工がされるのか。そんな楽しみを持つためにも読むべき良書であると言える。また、今月12日に亡くなった名将・古場監督による〝采配〟の一場面を知るのにも良いかもしれない。

   
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