図1は総務省「国勢調査」の2000~15年の間での市区町村人口増加率と市区町村就業者数増加率との関係を描いた図である。これをみると、両者はかなり似通った動きをしているが、同じような人口増加率の市区町村間でも就業者増加率はかなり多様である。中には、人口は増えても就業者は減っているところもある。
例えば、北海道札幌市では、人口は7.1%増えているが就業者は0.8%減っており、東京都立川市では、人口は7%増えているのに就業者は9.4%も減っている。一方、数は少ないものの、人口は減っているのに就業者は増えているところもある。例えば、大分県中津市では、人口は1.9%減っているが就業者は1%増えている。
こうした違いの背後には、女性や高齢者の就業参加の違いがある。図1の(b)から(d)は、就業者増加率と、男性、女性、65歳以上の高齢者の就業率の変化との関係を描いている。(b)の男性就業率の変化をみると、大多数の市区町村が男性の就業率の変化を示す縦軸の0㌽以下にあることから、全国的な高齢化を反映して、男性の就業率はおおむねこの15年で減少していることがわかる。
しかし、(c)と(d)をみると、女性や高齢者の就業率が就業者数変化を示す横軸の値に依らず大きく増加していたり減少していたりしており、たとえ就業者数が減っていても、女性や高齢者の就業率が大きく上昇しているところもある。こうした場所では、女性と高齢者が働き手となることで、就業者の減少の影響を緩和しているのである。
このように、単なる人口の変化では、働き手がどれくらいいるのか、ということは必ずしも捉えることができない。人は減っても、女性や高齢者が働きやすい環境を整えることで、働き手は増やせるのである。要は、議論で注目したい事柄を的確に表せる指標を用いることが肝要なのである。
都市と地方を見る4つの視点
2点目は、議論を行うときの視点について、である。都市への人口集中の是非を議論する場合、①地方にとどまる人の視点、②都市にすでにいる人の視点、③地方から都市に移動する人の視点、④全体的な視点、の4つの見方がある。
①の視点からみれば、地方から都市への人口移動は、自身が住む地域からの働き手の流出、および、人口減少のメリットとデメリットをもたらす。一般に、人口集中は、取引費用の節約や人的交流を通じたスピルオーバー(拡散)効果などを通じて、集まった個々人が意図しないメリットを生じさせる。
これは「集積の経済」と呼ばれ、都市形成の重要な要因と考えられている。その反面、混雑や渋滞などを通じて、意図しないデメリットも生じさせる。これは「混雑の不経済」と呼ばれている。地方で人口が減少すれば、混雑の不経済があれば、その減衰というメリットと、集積の経済があれば、その減衰というデメリットをもたらすことになる。
②の視点からみれば、地方から都市への人口移動は、自身が住む地域への働き手の流入、人口増加が集積の経済を増強するというメリット、および、混雑の不経済も増強するというデメリットをもたらすことになる。
③は移動する人本人の視点である。地方から都市へと移動する人々は、移動しないよりはした方が自分にとって望ましい、と思うから移動するものである。これは、地方も好きだが、より都市に憧れるから、という積極的な動機に由来する場合から、都市への憧れはないが、地方から離れたいから、という消極的な動機に由来する場合までのさまざまな可能性を含んでいる。しかし、どの場合でも、移動しないよりした方が自分にとってよい、と判断したから移動する、という意味では共通している。
④は俯瞰的に、①から③まですべてをバランスよく考慮した視点である。
こうした問題が政策論争に取り上げられる場合、地方の自治体は①の視点に、都市部の自治体は②の視点に立たざるを得ない。しかし、国は④の視点に立つ必要がある。地方、都市、移動の当事者の立場を理解し、バランスよく目配りしなければならない。