そこで猟犬の役割を果たしたのが検察だ。韓国の検事は日本と同様に司法試験を突破した秀才たちだが、軍事政権時代は軍人の風下に置かれてルサンチマン(怨恨)を鬱積させていた。文民政権になり軍事政権関係者糾弾の動きが始まると検事たちは、それまで忠誠の対象であった関係者を次々に取り調べ、全斗煥( チョン・ドゥファン )氏と盧泰愚(ノ・テウ)氏の元大統領を獄に繋いだ。
その後は政権が交代するたびに、新政権の守護者と世論の代弁者よろしく前政権関係者を訴追し続けた。2019年になぜか日本のお茶の間でも話題になった当時の法相である曺国(チョ・グク)への数々の疑惑事件は、最後に残ったパワーエリートである検察と、検察を含む旧来的な韓国を破壊しようとする文在寅政権の対立であったと見れば理解が容易だ。ドラマではヤメ検弁護士が殺人を指示するなど悪事を尽くすが、そのような検事像は韓国人の検察へのイメージを反映しているといえるだろう。
『イカゲーム』が浮き彫りにする「借金漬け」の韓国民たち
会社を解雇されてギャンブルにのめり込むソン・ギフン(演:イ・ジョンジェ)が、地下鉄のホームで出会った男に「数日ゲームをやれば金を稼げますよ」と唆されて、秘密の施設に送り込まれる。施設に集められたのは金に目がくらんで犯罪を犯したり、借金取りに追われたりしている男女456人。最後まで勝ち残った者が賞金約45億円を総取りできるゲームを提案される。ただし、ゲームに負けることは死を意味する。男女は拒否して社会に戻るが、二進も三進もいかない現実をあらためて認識して、秘密の施設に戻ってくる。死か一攫千金かをかけたゲームは、子どもの頃に慣れ親しんだ遊びだった――。
イカゲームを観る上でのキーワードは、ずばり「借金」だ。ドラマを一貫する経済格差と拝金主義というテーマも、この借金を淵源とする。
世界金融協会(IIP)によれば、2021年4月~6月期における韓国の家計債務残高の対国内総生産(GDP)比が104.2%となり、世界ワースト1となった。これは韓国の経済規模よりも、韓国人による銀行からの借入れとクレジットカード使用額などの販売信用が大きいことを意味する。
韓国に次いで香港が92%、英国が89.4%、米国が79.2%と続き、さらに順位は下がって日本が63.9%であることを見れば、韓国が世界で唯一、家計債務がGDPを上回る「借金漬け」の国であることが理解できるだろう。
大きな要因は見栄っ張りな気質
IIPはその原因について、韓国政府の不動産政策失敗で住宅価格が高騰したことと指摘する。例えば、ソウルと東京の分譲マンションを比較すると、ソウルは約8800万円(韓国不動産統計院)、東京は7712万円(不動産経済研究所)でソウルは東京の約1.14倍であるが、この数字からでは韓国人の皮膚感覚が分からないので別の数値を示してみよう。
20年末に韓国紙ハンギョレ新聞が行った調査によれば、17年に平均年収の16.5倍だったマンション価格は、20年には26.5倍になった。これを東京都(平均年収約447万円)に置き換えると、新築分譲マンションの平均価格が約1億1845万円になったことを意味する。とてもじゃないが、共稼ぎして35年ローンを組んだとしても買える価格ではない。
加えて、韓国人の見栄っ張りな特性も家計債務の増大に影響している。再びマンションを例にすれば、東京の平均面積68.2平方メートルのところ、ソウルは104.9平方メートルと広大だ。夫婦と子ども一人世帯の韓国人の友人になぜそんなに広い家に住むのかと聞いたところ、「家の広さはステータスに直結するので、狭い家に住むのは恥ずかしい」からだと答えた。見栄っ張りという特性は、上述のクレジットカード使用額などの販売信用にも影響している。